LGBTを取り巻く環境は、少しずつではあるが変わりつつある。東京都渋谷区では2015年3月、「渋谷区男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例」が議会で可決された。この条例によって渋谷区は、同性カップルに対してパートナーシップ証明書を交付することが可能となった。
「突然条例ができたことに驚いた」と振り返るのは、2016年9月から渋谷区役所の男女平等・ダイバーシティ推進担当課長として、LGBTの対応に取り組む永田龍太郎だ。
差別NGの民間企業でカミングアウト
永田は東京大学を卒業後、東急エージェンシー、ルイ・ヴィトンを経てGapの広報PRに転職。在職中に自身がゲイであることをカミングアウトした。社内には他にもゲイであることをオープンにしている人がいて、周りの人もそれに対して自然に接している環境だった。
Gapには「ゼロ・ミーンズ・ゼロ」という、一切の差別を禁止する方針がある。国籍、人種、肌の色、年齢、性別や性自認、性的指向、宗教、妊娠の有無、障がい、学歴など、どんな差別も許されないという厳しいルールだ。
ハラスメントが発覚した時点で、基本的にはクビとなる。また、社員全員の権利として、直属の上司からハラスメントを受けた場合は、そのさらに一つ上の上司に対して面談を申し込むことができる。ハラスメントに対して「ノー」と言える厳格な体制が整えられているのだ。
カミングアウト後、永田の元には友人経由で「GapにLGBTを支援してほしい」という相談がいくつも寄せられた。当時の部門長に伝えると、「Gapはお客様と従業員に対して公平性をもって接するカルチャーだが、日本ではそれが全くと言っていいほど知られていない。LGBTの取り組みは、ブランドを好きになってもらうきっかけになるかもしれない」と賛同を得られた。その後、勉強会を立ち上げ、LGBTのイベントにも協賛した。
渋谷区役所からのオファー
Gap在職中、渋谷区長とつながりのある知人から渋谷区の仕事のオファーがあった。渋谷区は2015年11月からパートナーシップ証明書の交付を始めており、当事者への直接的な支援をはじめ、役所内、区民、企業に対する啓蒙・啓発が必要な段階に移っていた。そこで、LGBT当事者のことが分かり、かつコミュニケーションのプロであるという点から、永田に白羽の矢が立ったのだ。
永田自身は「LGBT人権活動家」ではなかったため、深く悩んだが、考えた末、引き受けた。