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ドクター本荘の「垣根を越える力」


「日本から見ると、シリコンバレーのベンチャーキャピタルはカッコよく分析や戦略立案をするイメージを持たれているかもしれませんが、現実はめちゃめちゃ泥臭いです」という佐藤氏は、あるマイクロVCの社長に一日同行した経験をこう振り返る。

「連れていかれたのは、ボロボロで何も書いてないガレージみたいなところでした。社長がドアが開かないぞ、ホントにここなのか? と一緒にいた若手キャピタリストに言って見渡すと、空気の悪い地下一階に寝袋がいくつか転がってるんですよ。でも、自己紹介を聞くとMITの博士とか錚々たるメンバーで、スゴイ話をするんです」

そこでVCが厳しいこと言うのかと思いきや、「グッド、ファンタスティック!」と起業家をノセていいアイデアを引き出し、一緒にやろうという空気をつくるという。すると、スタートアップの社長は、顔色悪いながら、必死に説明するのだ。

訪問の後、そのVC社長は「あの事業はダメでpivot(転換)するだろう。しかし、言うことは鋭いしチームもいいから、もう二回くらい訪問してみよう」と若手と話したという。

大企業がシリコンバレーのエコシステムとつながるには、こうした個性あふれるキャピタリストや起業家、つまり「人」とつながることが不可欠となる。しかし、VCは未来をつくるスタートアップに投資してリターンを得ることに忙しく、一般的には日本大企業の面倒は見てくれない。そこで、その間をブリッジし、大企業各社の戦略に適したサポートをするNSVのような機関が機能しているというわけだ。

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イベント「シリコンバレー最先端VCが語り合うFinTechの本当の流れ」に登壇したマイクロVC関係者たち

課題はマインドセットの転換

ほとんどの事業分野で、日本はシリコンバレーの周回遅れだ。

このところ日本の新聞で取り上げられるロボアドバイザーも、米国ではスタートアップの買収や提携により大手が市場の大半を奪って成長中だ。手数料も、預かり資産の1%といった日本の相場より大幅に低い(0.25%程度、一部は無料)。日本だけ見ていても始まらないと言えよう。

数字をみても、歴史的なVCのIRR(投資利回り)は、日本のVCは2%以下、米国は10%台半ば、米国マイクロVCはさらに高いと言われている。未来をつくるスタートアップをとらえている証左だ。

しかし、シリコンバレーの情報を得ても、そのまま他国に使えるわけではない。各国の市場や規制に適したものにしなければならない。

また、スタートアップというものは、そもそも一点集中して尖ることを良しとする企業体であり、カバーする範囲は狭い。日本の大企業はこれを理解しておかないと、彼らを十分に活用することが難しい。つまり、大企業にはスタートアップを活用していく上で、彼らがカバーできていない要素を補完することにも配慮しなければいけないのだ。

既存事業とは異なるマインドセットも必要となる。シリコンバレーを不確実性に満ちた壮大な実験場ととらえ、そこから生まれる予想を超えたアウトライヤーを早期に見出す。これには、計画的に事業を推進する従来型の大企業とは反するマインドセットが欠かせないのだ。

そして、このマインドセットを得るには、シリコンバレー・エコシステムの内側に参加することが早道だ。Bullpen Capitalのエリック・ウィージン氏は、P&Gからプロダクト・リーダー25人に話をしてくれと依頼されたという。ITだけでなく様々な業界・職種で、シリコンバレーのやり方やカルチャーを学ぼうとしているのだ。日本大企業はこれまであまり行ってこなかったが、佐藤氏のようにやればできるものでもあろう。

日本大企業のみなさん、不確実性の海にダイブする準備はできているだろうか?

文=本荘修二

デル三菱ufjフィナンシャル・グループbull
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