AかBかの2択の場合、多数決はとてもわかりやすい。だがこれが3択以上になると、2000年のアメリカ大統領選挙のように「票の割れ」が起きてしまう。そしてブッシュのように「漁夫の利」で当選するものが出てきてしまうのである。
これを防ぐ方法を考えたのが、18世紀フランスの科学者、ジャン=シャルル・ド・ボルダだ。ボルダは「1位に3点、2位に2点、3位に1点」と順位ごとに配点するボルダルールという決め方を考案した。このルールのもとだと、ゴア支持者は1位をゴアに、ネーダーの支持者もゴアは2位にするはずだから、総得点でゴアは勝利したと思われる。ボルダルールは、票の割れの影響を抑えるのに優れている。
票の割れに対応できる決め方は他にもある。
多数決に決選投票をつけるやり方がそれだ。初回の投票で1位が過半数を得なければ、1位と2位とで多数決による決選投票をするという決め方で、フランスの大統領選や自民党の総裁選などがこのやり方を取り入れている(2012年の自民総裁選では1回目の投票で安倍氏はそもそも2位だった)。
ここで紹介した「決め方」はほんの一例に過ぎない。本書を手にとれば、こんなにも多種多様な決め方があるのかと驚くはずだ。しかも、決め方には歴史だって変えてしまう力があるのである。
「奴隷解放宣言」によって歴史に名を残した第16代アメリカ大統領のリンカーンは、歴代大統領の中でももっとも尊敬を集める人物だが、当時の選挙を分析した研究によれば、実はリンカーンは票の割れに助けられて当選したという。ボルダルールではなんとリンカーンは負けてしまうというのである。当時の南部の人口の3分の1を超える奴隷には選挙権がなかったことを考えれば無理もない。
リンカーンが大統領になれず「奴隷解放宣言」も出なかった歴史はちょっと想像したくないが、このことからわかるのは、たとえ有権者の意思を汲み取りやすいボルダルールだろうと、偏った考えの連中が運用すれば、その結果も歪んだものになってしまう可能性があるということだ。
自分たちのことは自分たちで決めるというのが民主制の根幹である。そして決め方は、ひとりひとりの意思を社会に反映させるために必要なツールだ。
だとするなら大切なのは、それを使う私たちがどんな社会や未来を望むかではないか。私たちはどんな社会や未来を選び取ればいいのだろう。人々の笑顔が絶えない社会、誰もが希望を感じられる未来はどんな姿をしているだろう。選挙をきっかけにみんなで考えてみるのも悪くない。
選挙でどうせ世の中なんて変わらないと思っている人にこそ本書をすすめたい。この本に書かれているように、世の中を変える方法はまだたくさんある。
私たちはそのほとんどを、まだ試したことさえないのだから。
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