ビジネス

2017.10.09

イノベーションと共に進む「人間のデータベース化」の光と影

shuttestock.com

今から半世紀前に製作された特撮シリーズ「ウルトラセブン」の傑作の一つに、「第四惑星の悪夢」がある。

これは、人間が作り出したロボットに人間が支配されるようになってしまった惑星の物語である。ロボット集団が、膨大なデータを中央コンピュータで完全に管理する中、プログラム通りに動けず記憶力も不完全な人間は、「出来損ない!」と罵られ、奴隷として扱われている──。

現在のAIを巡る悲観論を先取りするような作品が、アポロ月着陸よりも前に作られていたとは、「さすが天才、実相寺昭雄監督!」と感服せざるを得ない。

第四惑星に限らず、この地球でも古今東西、一定の支配力を持った国がまず行ったことは、データの収集とデータベースの整備であった。古代日本の律令国家然り、太閤検地然り。どの程度の人口がいて、どの位の担税力があるのかの把握が、パワーの源泉となってきた。

現在、データの収集はより複雑かつ巧妙な形で行われるようになっている。SNSを通じてオープンなネット空間に発信する情報は、見知らぬ人々にも利用されると覚悟する必要がある。同様に、我々がネットで入力するさまざまな検索情報も、当然企業側に収集されている。最近では、ポイント機能付きクレジットカードで買う方が現金より安くなるケースが増えているが、これも、自分の情報を「割引」を通じて企業に売っているとみることもできる。

今、お隣の中国では、このような情報やデータの集積が、さらに大規模な形で進んでいる。中国の巨大フィンテック企業は、何億人もの人々に信用スコアを提供し、人々は日々変動する自分の信用スコアをお互い見せ合っている。まるで、プレーを重ねるほどスコアが上がるゲーム機の感覚で、人々は自らの信用スコア向上に努めているのだ。

そのうち日本でも、合コンでの会話から相手の事をいろいろ推し量るより、ストレートに貴方の信用スコアを見せてくれる方が手っ取り早いんだけど……という話になりかねない。

合コンはさておき、ビジネスの観点でも、人間のデータベース化は「手っ取り早い」手である。例えば、中国進出を考える日本の中小企業にとって、「親身のコンサルティング」と、「中国巨大eコマース企業による数億人分の顧客分析データ」と、どちらが欲しいかと言われれば後者かもしれない。

データがパワーの源泉であることは、昔も今も変わらない。とりわけ、グローバル競争がビッグデータを核に展開している今、日本も、情報セキュリティやプライバシーを確保しつつ、ビッグデータを活用していく方法を真剣に考える必要がある。
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文=山岡浩巳

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