インテル内でのAI活用から見えたモノ定型業務の自動化やビッグデータの分析、将棋や囲碁の対局、自動応答サービス、自動運転など、AIを生かした最新の取り組みが近年盛んに報じられている。まだ実現は先になりそうなものも多いが、その一方で実用の段階に入ったものも増えてきた。
インテルは早くからAIの可能性に注目し、自社の業務最適化などに活用してきた。特に情報システム部門では、これまでに大きな成果を上げている。
インテルの情報システム部門はグローバルで約5,700人が在籍する大所帯、これは実に全社員の6%に当たる割合だ。一般の企業であれば業務部門に在籍してITに関わるビジネスアナリストのような役割の社員も、インテルでは情報システム部門に所属する。CRMのようなマーケティング部門が担当することが多いセールス分析の仕事も、情報システム部門の担当だ。ITに対する予算も莫大で、売り上げの2.3%、年間約13億ドルに上る。
インテルの情報システム部IT@Intel APAC Directorである邱天意は、同社のAIの活用について、製品のデザインやテスト、セールスを効率化するためのビッグデータの分析など、さまざまな分野で実用段階にあると語った。
例えばプロセッサ開発の際、シリコンウエハと呼ぶ主要部品のテストにAIを活用している。シリコンウエハは製品特性の違いによって生産ラインごとに必要なテストの時間や工程が異なるといった問題があった。
「ライン毎に対応を変えると管理が複雑になるため、以前はあまり作業を効率化できませんでした。現在はAIを活用して過去のデータと照らし合わせて最適なテストを選択できるため、テストの時間を大幅に短縮できるようになりました」
プロセッサの動作テストもAIによって大幅に効率化している。AIが必要なテストを自動で作成・実施し、テストの際にプロセッサが書き出すログデータを自動でチェックしてバグを見つけ出す。これにより、従来の60倍の速度でテストを終えることができ、発見するバグの数も30%増えたという。
インテルのAI活用がもたらす未来もちろん製品のセールスでも大きな成果を生んでいる。インテルの取引先は従来、そのほとんどがPCやサーバーのメーカーだったが、そこに変化が生じているという。
「現在そういったビッグカスタマーは全体からすれば少数。IoTなどの新規事業でプロセッサが使われるようになったため、オンラインセールスで非常に多くの方と直接取り引きするようになりました」
同社ではAIを使ったデータ分析エンジンとリコメンデーションシステムを活用することで、多数の取引先に対し効率良く営業ができるようになった。
こうしたAI活用の取り組みにより、2013年からの4年間に累積で6億5600万ドルの価値を生み出した。製品生産のリードタイムも、最大で約39週間短縮することに成功したのだ。
インテルはこれからさらに多くの分野でAIを活用していく意向だ。情報システム部門でのAI活用以外にも、さまざまな取り組みはすでに進行していて、自動運転の研究などもそのひとつだ。運転中のデータを収集し解析して、最新のラーニングデータとして戻す。そのサイクルのリアルタイム更新が可能となれば、AIにより随時補完される自動運転も可能となる。データカンパニーとしてのインテルのAI活用の先には、こうしたスキーム形成が理論上成り立つのだ。
インテルは増え続けるデータを、成長とイノベーションの原動力にすべく積極的に活用する戦略を描いている。09年に10人以下でスタートした情報システム部門のビッグデータ担当アナリストチームも、現在は130人まで拡大した。今後その数を増やしていく計画だ。AIをリアルに活用していくインテルの戦略から目が離せない。