そして、前回から変えたところ、その2。それは「型をつくる」ということでした。6月のプレオープンのあと、国内外から「ぜひ自分の地域、自分の国でもやりたい」という声をたくさん頂きました。すごく嬉しくて、ありがたい話だと思いつつ、正直頭を抱えてしまいました。
「注文をまちがえる料理店」のプロジェクトに参加しているメンバーは、デザイン、IT、料理店経営、認知症介護といった各分野において、第一線で活躍している最高峰のプロフェッショナルたちばかり。いわばオールスター級を揃えたからこそできたのがプレオープンだったので、これをどの地域でも実施するにはどうしたらいいのか、僕にはその答えがすぐには分からなかったのです。
そこでメンバーと何度も話し合い、今回は「注文をまちがえる料理店」の“型”をつくることが大切なのではないかという結論に至りました。「注文をまちがえる料理店」が大切にしなければいけないルール(おしゃれであること、料理がおいしいこと、アレルギーや料金の点で安心安全が保たれることなど)や実施にあたって具体的に必要になってくるリソース(人、場所、グッズ、お金など)を洗い出し、「自分の地域でもやりたい」という声に応えられる体制づくりを目指すことにしたのです。
その中でも僕たちが大切にしたのが、「間違えることを目的にしない」ということです。「注文をまちがえる料理店」と言っておきながら変な話ですが、これは僕たちの背骨ともいえるような、とってもとっても大切なルールです。
あたりまえのことですが、認知症を抱える人たちは、間違えることなど望んではいません。間違えたくないけど間違えてしまうし、忘れたくないけど忘れてしまう。そして、間違えたときには混乱するし、深く傷つくこともある。だから「注文をまちがえる料理店」では、認知症を抱えるホールスタッフが、できるだけ間違えないような準備や体制をとったうえで、それでも間違えてしまったときには「ごめんね、てへぺろっ」ということでやろうと決めたのです。
そんなことを言うと、「あらあら、ずいぶん立派なことを……」と思いますよね。ごめんなさい、これって言うは易しで、プレオープンの時からこのことをぶち上げているのですが、僕たち全然できませんでした。プレオープンは、むちゃくちゃカオスでしたから。お客さんの60%が間違いを経験するという衝撃の結果が出ましたからね。それはそれでお客さんが楽しんでくれたのでよかったのですが、僕たちの中にそれでいいんだっけ? という思いは残りました。
「間違えない準備を!」なんて息巻いていたけど、結局理念ばっかり先行して、本当に突き詰めてその準備できてたんだっけ? と疑問がわいてきたんですね。
型をつくるためにオペレーションを一つ一つ見直していくと、やはり僕たちのオペレーションにはたくさん穴がありました。間違い発生率60%には理由があったんです。というわけで、いろいろ改善することにしました。
例えば、お客様がばらばら入店してくるとホールスタッフが混乱するので、事前予約制にして、みなさん決まった時間に来て頂くようにしました。また、お客様が入店してお帰りになるまでの一回転を90分とかなり長めにすることで、焦らずゆったりと働けるオペレーションを設計。さらに、ホールスタッフの担当するテーブルを明確にして迷わなくて済むようにしたり、サポートする福祉の専門家の人数や配置もゼロベースで検討し直しました。オペレーションの確認も現地で何度か行い、今度こそこれでもかというくらいの準備を重ねました。