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日本と世界の「教育のこれから」


この研究から何がわかったか。実は学力と言う意味では、3つのグループに統計的に優位な差は生まれなかった。差が生まれたのは、社会性である。

AのグループはBとCにくらべて犯罪率が3倍高く、また就職後に停職処分を受けた率がBとCは(23歳時点で)0%であったのに対してAのグループは27%だったと言うのだ。もちろん、サンプル数が68と、社会実験調査としては数が少ないのではないかと言う批判が存在することも公平性のためには言及しておくべきだろう。

しかし、1970年代にドイツで行われた50名の幼児に対して行われた実験においても、読み書き演算などを教えられた子どもたちと、自ら遊びを創り出す幼児教育の中で育った子どもたちとでは、10歳の時点で、想像力、表現力、勤勉性、など17の指標全てにおいて、後者の評価が前者の評価を上回ったと言う研究事例も紹介しておきたい。

良質な幼児教育を広めるために必要なこと

「もちろん、だからと言ってその辺に放って遊ばせておけばいいと言うわけではないのよ」とHorwitz博士は笑う。

幼児教育の重要性を主張として最も著名なのは、ノーベル賞を受賞した経済学者ジェームズ・ヘックマン教授によるものだろう。数々の論文や著書の中で、0歳から5歳までの幼児教育が、子どもの学力、キャリア、健康、社会性に及ぼす影響を考えると、幼児教育への投資は年間に7〜10%のリターンを社会にもたらす、と説いている。そして、そのリターン(正の影響)は、低所得者層になればなるほど大きくなる、と。

ただし、ここで言う幼児教育は、詰め込み型の英才教育ではないことは重ねて強調しておきたい。子どもの成長過程と、個人差のある成長の各段階においてどういった特徴があり、好奇心や才能を引き出しながら社会性も身につけるためにはどういった手法が効果的かを、体系立てて理解した教育者が、現場で子どもと接することが肝要なのである。

Horwitz博士はさらに、「創造性を身につけるためにピアノ、運動能力を高めるために水泳、といった習い事をするのは悪いことではない。けれど、(決められたルールの中で行うスポーツや、先生の言う通りにレッスンを積み重ねるのとは違って)自らオープンエンドに探求と発見を積み重ねていく遊びほど、幼児期に重要なものはない」と語ってくれた。

「でも、そういう質の高い幼児教育の担い手を、どうやったら増やしていけるのでしょうか?」と私が尋ねると、博士はじっと私の顔を見つめ、一瞬の沈黙の後、堰を切ったように話し始めてくれた。

ここからは次回に譲りたいと思う。

ISAK小林りん氏と考える 日本と世界の「教育のこれから」
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文=小林りん

しより小林りんマツダ
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