ビジネス

2017.09.19

海外の真似は「短略的」 有識者5人に聞く日本の勝ち筋

海外と比べて日本の生産性は低いと言われているが、特にサービス業や製造業に関しては非常に効率よく回っており、「おもてなし」に象徴されるように細やかな配慮も行き届いている。



4. 「カイゼン」「身の丈」「横並び」日本らしさを突き詰めよ

 ─岩本晃一 / 独立行政法人経済産業研究所 上席研究員

今後日本のものづくり産業が成長を遂げていくには、いかに「日本らしさ」をより推進していくか、これが重要なポイントです。

日本のものづくりを象徴する言葉が「カイゼン」です。ドイツはインダストリー4.0を掲げ、無人化全自動工場の実現を目指すなど、製造業の高度化を推し進めています。しかし、日本が同じようなことをやろうとしても上手くいかないでしょう。

日本企業は、壮大な目標から逆算して物事を進めることより、目の前の課題のカイゼンを図ることが得意。コマツが1998年に開発した機械稼働管理システムは良い例です。当時、現場で問題になっていた建設機械の盗難への対策をきっかけに、このサービスが生まれました。

中小企業の数が多いのも日本の特徴です。これまで、IoTやAIといった最新のテクノロジーを中小企業の現場に応用することは、ハードルが高いと思われていました。しかし、技術のコモディティ化が進み、10万円程度の廉価なシステムも登場しています。中小企業が「身の丈」に合った技術を導入することで、日本の産業自体が活性化するでしょう。

日本独特の「横並び意識」もプラスに働く可能性があります。日本の勝ち筋として、政府はコネクテッド・インダストリーズを掲げていますが、ライバルが始めれば自分たちも始めるのが日本企業。その輪が広がれば、現場にテクノロジーを活用する大きなムーブメントが起きるでしょう。


2017年3月、独ハノーバーで開催された、CeBIT 2017(国際情報通信技術見本市)。そこで日本とドイツの両政府は、第四次産業革命に関して日独が協力していくことを定めた「ハノーバー宣言」に署名した。

5. 熟練農家の技術をノウハウ化し「農家四季報」を作成せよ
 ─神成淳司 / 内閣官房 情報通信技術総合戦略室 室長代理

「農家四季報」を作る──これが私の考える、日本の農業の勝ち筋です。四季報とは、業績予想や財務情報など、投資に必要な情報が詰まっているハンドブック。その農家版を作れ、というわけです。

農家の仕事は主に「作業」と「判断」に分けられます。作業は種を植える、収穫をするなど素人でも行えるルーティンワークのようなもの。一方、判断は水やりの量や収穫のタイミングなど、熟練した農家の経験や勘が必要とされるものです。

この「判断」こそが、農家の競争優位性を生み出す源泉であり、収益を生む種になります。今まで熟練した農家の判断は、暗黙知化していて、それを形式知化することができずにいました。

しかし、ここ数年でAIやIoTが普及。データの収集、分析が手軽に行えるようになったことで、熟練した農家の技術をノウハウ化することができるようになったのです。

そのノウハウを会社四季報のようにまとめる。そうすれば、その情報が欲しい別の農家や企業が現れ、新たなビジネスにつながる。これが私の提案です。農家は、農作物や種を販売するだけでなく、ブラックボックス化した栽培ノウハウをセットで販売するというわけです。

データは収集するだけでは一円の価値もない。いかに活用して、付加価値を創出していけるかどうか。この考えを持つことが、テクノロジー化が進むこれからの時代の成功基準になるでしょう。


慶應義塾大学 SFC研究所 神成淳司研究室では、データマイニングなどの分析を活用し、熟練農家が持つ高度な生産技術を「見える化」。新規就農者でも、短期間で熟練農家のような高度な栽培技術を身につけられるかどうか検証している。

構成=フォーブス ジャパン編集部

この記事は 「Forbes JAPAN No.38 2017年9月号(2017/07/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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