ビジネス

2017.09.19

海外の真似は「短略的」 有識者5人に聞く日本の勝ち筋

海外と比べて日本の生産性は低いと言われているが、特にサービス業や製造業に関しては非常に効率よく回っており、「おもてなし」に象徴されるように細やかな配慮も行き届いている。


2. イノベーションを起こすにはバックオフィスを変革せよ
 ─牧野正幸 / ワークスアプリケーションズ CEO

日本企業が大きなイノベーションを起こす、その起点は企業のバックオフィスにあります。バックオフィス業務は単純業務と判断業務の2つに大別できますが、入力作業や定例作業などのような単純業務に関しては、個社ごとの競争優位が発揮される領域では既になく、全体最適化してシステムに代替させることで生産性を上げることができる分野。つまり、誰がやっても同じようにできるような仕組みにすべきところに、優秀な人が忙殺されているケースが多い。これは大きな損失です。

優秀な人は単純業務ではなく、クリエイティビティを必要とする判断業務に関わらなければいけません。日本人は平均的に教育水準が高く、多くの人は単純作業以上のことができる。一方、海外のように業務ごとのレイヤーが明確化された組織形態でないため、海外流を取り入れようにも上手くはいかない。日本企業の強みである個別最適化された土壌に、全体最適化すべきバックオフィスの単純業務。この課題に、日本は今直面しています。

コネクテッド・インダストリーズというと企業間・産業間など大きな話になりがちですが、足元にあるこの課題をIoT技術やAI活用で解消し、単純業務は全てシステムができるようにする。そうすれば、データを媒介して企業間はつながり、一方で企業内の優秀な人材を活かすことができるようになる流れができます。個別最適と全体最適を使い分け、優秀な人が活躍できる方法を組織として考えなければいけません。

3. 生産性向上のために働く人の「幸せ」を科学せよ
 ─矢野和男 / 日立製作所 研究開発グループ 技師長

日本経済を活性化させる鍵は、ホワイトカラーの生産性向上にあることは間違いありません。働き方をより生産的にするには、まず成果にこだわり、その実現手段にはより柔軟になるべきです。AIやIoTといったテクノロジーの導入は、そのための手段。大切なのは、解くべき課題の設定です。

日本の大企業には、戦後高度成長期から社内に残り続けている古い慣習があります。それが、適切な課題設定を阻んでいます。当時は、企業活動において最適なルールであったとしても、今ではただ踏襲されているだけのものも多い。こうした呪縛を打ち破ることが、最高のビジネスチャンスになると思っています。

組織内の枠を壊すという課題設定は、AIではなく人間にしかできません。そんな困難に挑む動力源こそが、人間の持つ「ハピネス(幸福感)」です。

私たちは「働く人がいかにハピネスを感じながら仕事をするか」という問題に、多目的人工知能「Hitachi AI Technology/H」で取り組んでいます。実施しているのは、定量化による働く人の「ハピネス・マネジメント」。例えば、名札型のウェアラブルセンサーで得られた身体の動きのデータから、「午後一番に上司に会いに行こう」といった具体的なアドバイスをスマートフォンに提示します。

当然、幸福のあり方は、人それぞれ。ただ、その多様性をビッグデータやAIならば分析できる─そう信じているからこそ、テクノロジーによる日本の生産性向上を目指しているのです。


集団の中での、動きの有無やその時間といったデータを名札型ウェアラブルセンサーが取得し、働く人の幸福感を分析する。
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構成=フォーブス ジャパン編集部

この記事は 「Forbes JAPAN No.38 2017年9月号(2017/07/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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