ビジネス

2017.09.18

シリコンバレーのセクハラ被害女性の手記「リセット」が出版

「リセット」の著者 エレン・パオ(Kimberly White)

セクハラや性差別を受けたとして大手ベンチャーキャピタルを訴え、シリコンバレーに波紋を起こしたエレン・パオが、裁判の顛末を綴った手記を出版する。

米国では9月19日発売の同書「リセット(Reset: My Fight for Inclusion and Lasting Change)」によると、クライナー・パーキンス・コーフィールド・アンド・バイヤーズ(KPCB)の元ジュニアパートナーであるパオは、2012年に同社を提訴する前、同じように企業を相手に戦った女性たちにコンタクトを取り、助言を受けたという。

〈彼女たちは一様にこうアドバイスした。「やめておきなさい」と〉(同書からの引用、以下同)

〈一人からは「とても苦しく最悪な経験だった。酷いシステムで、使える資金や人材にあまりにも差がある。彼らの戦い方はフェアではない。勝ったとしてもあなたの評判はガタ落ちになる」と言われた〉

それでもパオは提訴に踏み切り、3年にわたる裁判を経て、2015年に敗訴した。KPCBの企業イメージは悪化し、シリコンバレーの男性優位の実態が明るみに出た。その一方で、パオが心身に受けたダメージが世間に知られることはなかった。

〈マスコミに対し、クライナーは私の能力が低いと主張し、同僚たちは私の夫を蔑む発言をした〉

〈SNSは事実ではない中傷であふれ、私の評判を破壊した。私は流産し、(中傷による)ストレスが原因だったのではないかという思いを拭いきれなかった〉

パオの裁判以降、何人もの女性がベンチャーキャピタル界におけるセクハラや不当な扱いに対して声を上げてきた。その結果、500 Startup共同創業者のデイヴ・マクルーアやBinary Capitalのジャスティン・カルドバックが辞任し、億万長者の投資家クリス・サッカは性差別が起きる環境に加担したことを謝罪した。

シリコンバレーの上層部は白人男性

パオは、最近になってマスコミや世間が女性の発言に耳を傾けるようになったと感じている。「今は転換点なのだという希望を持っています。ゲッシェ・ハース、キャスリン・ミンシュー、ケリー・エリスといった(不平等に対して声を上げる)女性たちがいます。マスコミが彼女たちの話を信じていることが素晴らしい。人々が不快な思いをすることなく経験談を共有しやすい環境ができつつあります」とパオは語る。

問題はシリコンバレーのトップ企業が、上層部を白人男性で固める習慣を変えようと十分努力していないことだ。パオは言う。「性差別だけではありません。人種、年齢、国籍による差別があります。ただ女性幹部の数を増やせば解決する問題ではありません。どうすればテック業界を本当の意味でリセットできるのでしょうか」

パオは現在、Kapor Capitalのダイバーシティ&インクルージョン部門の責任者を務めている。今年、セクハラ問題で話題を集めたウーバーは、皮肉にもKaporの投資対象の一つだ。

「新CEOを迎えたばかりのウーバーを批判する気はありません。(新CEOのダラ・コスロシャヒは)良い人物だと聞いています。ウーバーのケースはテック業界にはびこる悪習の一つの例に過ぎません。業界全体の問題ですから、他の大企業にも目を向けるべきです」

著書「リセット」のラストで、パオは自身の経験をもとにした8のアドバイスを述べている。8つ目のアドバイスは「周りの人々を助けよう」というシンプルなものだ。パオ自身も、テック業界のダイバーシティを推進するためのNPO「Project Include」を2016年に立ち上げた。

ハラスメントに苦しむ人々へのもう一つのアドバイスは、「個人攻撃と捉えないこと」だとパオは言う。さらにパオは自身が先人から受けた助言を繰り返す。「裁判は最後の手段にすることです」

編集=海田恭子

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