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2017.09.19

世界を目指すアグリテックの「ザッカーバーグ」

(左)ミスルトウ 鈴木絵里子、(右)プラネット・テーブル 菊池 紳(photograph by Toru Hiraiwa)

菊池紳が2014年に創業したプラネット・テーブルは、生産地と都市を繋ぐ農産物流通プラットフォーム「SEND」、生産者とバイヤーの取引管理プラットフォーム「SEASONS!」を提供している。

鈴木絵里子がインベストメント・グループ ディレクターを担うミスルトウは、16年8月に投資を実行した。


鈴木:初めて会ったのは16年夏頃、プラネット・テーブルが資金調達に動いている時。当時、アグリビジネスの聖地、サンフランシスコで多くの企業が苦戦していたこともあり、サービス内容にすぐピンときたわけではありませんでした。

ただ、菊池さんとお会いし、疑念は瞬時に払拭されました。食・農業の深い知識をお持ちな上、業界の課題を流通と捉えて注力されていた。生産者への熱い思いの込もった“土の匂いがする話”を通じて、その社会課題になぜ取り組んでいるかも明確でした。

菊池:生産者支援を軸とした農産物流通イノベーションの必要性を痛感したのも、問題が「自分事」だったからです。PEファンドに勤めていた28歳の時、山形の祖母から農家を継いでくれないかと相談を受けたのを機に、農業の現状を目の当たりにしました。

畑では生産物が80円ほどで売られる一方で、東京では同じモノが200〜300円で売られている。そのため、多くの産地が衰退していました。そこで、小規模な生産者が意欲的に取り組みつつ、再生産可能な合理的な対価を得られる仕組みをつくろうと考えました。

走るファーマーズマーケットともいえる「SEND」は、4000軒を超える契約農家・生産者には都市部の「営業・配送センター」として、約3000軒のレストランには「全国から食材が集まる食材庫」としてご利用いただいています。我々が生産者の代わりに販売・配送し、都市部のレストランに対する販売価格の8割を生産者にお支払いしています。流通に関する一気通貫モデルのアレンジャーとして、農畜水産物の持続的な発展に貢献したいのです。

鈴木:日々、色々な意見交換をしているのが我々のダイナミクス。起業家に課題を与えるというアプローチよりは、議論を重ね合わせながら、お互いの意識を先へ持っていくイメージ。ミスルトウはアジアにも拠点を持ち、インドのアグリテックにも投資しています。世界の食と農業に対して、バリューチェーンすべてに目を配りながら流通基盤から底上げしていきたいと考えています。

菊池:海外展開は水の豊かなモンスーンアジアを念頭に、今期からシンガポールやインドで足場づくりを始めます。その一方で、モノの流れだけでなく、お金の流れも支援していきます。出荷期における早期支払いニーズ等、農業取引に最適化された金融支援サービスを提供し、生産者の資金面での課題解決にも取り組んでいきます。

農業を支える包括的な機能整備へ特化していくことで、どこまでも「生産者支援の会社」でありたいと考えています。我々のテーマは社会性の強い内容であり、ミスルトウ自体も社会課題をどう解決するかが念頭にある事業体であるため、最良のパートナー関係だと感じています。

鈴木:農業は本質的にもグローバルなビジネスであり、チャンスがあると信じています。また、経営者としてバランスの取れたスキルを持ち、大義をもって社会課題の解決に取り組む起業家が増えつつあるという、新しい世の中の兆しをミスルトウとしても肌感覚で感じています。

そこで菊池さんには、グローバルで成功していただき、同領域のマーク・ザッカーバーグのような存在になっていただくことを期待しています。


鈴木絵里子◎ミスルトウ インベストメント・グループ ディレクター。外資系投資銀行にてM&A及び資金調達業務に従事後、外資系ラグジュアリーブランドにて事業計画立案を担当。米ドローンベンチャーの日本法人代表を経て、ミスルトウへ参画。主な投資先はNinjaCart、InnerChef(ともにインド)、Alesca Life Technologies(香港)など。

菊池 紳◎プラネット・テーブル代表取締役。外資系金融機関や投資ファンドなどを経て独立。2013年2月、農林水産省主管の官民ファンドや六次産業化の支援に従事。14年5月、プラネット・テーブルを設立。農業・食分野のイノベーションに関するエバンジェリストとして、企業や自治体のアドバイザリーも手掛ける。

文 = 土橋克寿

この記事は 「Forbes JAPAN No.38 2017年9月号(2017/07/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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