ビジネス

2017.09.17

日本の「空き家」を狙うのも、やはり中国の人々か

Yolanta / shutterstock


空き家所有者たちのミクロレベルも深刻だが、マクロ経済的に見ても頭が痛い。スクラップのためにはさまざまな業種が関与し、GDPは増加するだろう。ケインズではないが、地面に穴を掘るだけでも目先の景気はよくなる。だが、一巡したらおしまいである。壊しただけで活用されなければ、やがて先枯れる。

昨今は、成長ではなく分配を重視すべきだ、という考え方が有力である。むろん、フェアな分配がなされなければ社会はよくならない。だが、分配のパイを広げるための成長戦略も不可欠だ。空き家問題は、基本的には分配以前のスクラップのレベル。それのみでは、無価値の分配のために、お金を使うようなことになってしまう。不毛な分配領域が拡大するだけだ。ビルドのためのスクラップ、という明確な方向付けが欲しい。

長崎の海沿いの旧家の相続人が自慢した。「私の実家の取り壊しには、600万円もかかったのよ。参ったと思ったけど、庭木と中国人に助けてもらえたわ」。

彼女の実家には、多くの樹木が茂っていたが、門の近くに檜(ひのき)の巨木が二本立っていた。

「伐採処分にクレーンが必要で50万円かかる、と言われて参っていたら、中国人が訪ねてきて檜の木を一本300万円で売ってください、って」

檜は中国に渡って、風呂桶なり家具なりとして価値を発揮するのであろう。では、残された、滅多に人を見かけない海辺の更地はどうだろうか。彼女は別荘地として転売したいそうだが、簡単な話ではない。更地になったので固定資産税が急増する。やがてその負担に耐えがたくなったとき、何が起こるのだろうか。更地を買いにくるのはやっぱり彼の国の人たち─。

文=川村雄介

この記事は 「Forbes JAPAN No.38 2017年9月号(2017/07/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事