たった3語で地球上どこでもピンポイント、メルセデスが採用する最新ナビ

新ナビシステム「What3Words」


ところで、これほど革命的なシステムの誕生には、どんなストーリーがあるのだろうか。

実はこのSF小説のようなアイディアの生みの親は、あるミュージシャンだ。彼は、住所表示の曖昧さに非常に不満を抱えていた。そして、友人である2人の数学者と共同で、地球を丸ごとマッピングし、どこへ行っても正確に目指す地点に行きつける方法を模索し始めたのだった。

同社の共同創立者となった発案者、クリス・シェルドリックには、確実に目的とする地点を見つける方法がどうしても必要だった。というのも、彼のバンド機材が演奏する場所から次の場所へ移動する際に紛失することが何度もあって、業を煮やしていたのだ。

2013年、ついにシェルドリックは、数学者のジャック・ウェイリー・コーエンとモウハン・ガイネサリンガムと共に、どうしたら最も信頼性が高く有効な住所システムを創れるか、ブレインストーミングを始めた。

3人が気づいたのは、どんなに簡素化しても18桁のGPSの組み合わせは複雑すぎて一般人には手に負えないということ。そして、アルゴリズムによって組み合わせられた3つの言葉なら、誰にでも覚えられるだろうという名案が生まれ、わずか3語で住所を表すというアプリケーションの最初のリストが創られた。

では、どうして彼らは57兆の方眼にしようとしたのだろう。まず地球全体を3m×3mのグリッド・パターンで区切るにはそれだけの数が必要だったからだ。3語ずつの組み合わせで、ひとつずつのグリッドにこの惑星で唯一の名前をつけるのに、4万語だとその3乗、64兆の組み合わせができる。57兆より少し余裕がある。

メルセデスベンツがそのカーナビにW3Wを採用したのに伴って、他のカーメーカーからのアプローチも始まっているそうだ。とある日本のカーメーカーとのディスカッションのために、近く日本にも来る予定だという。「来年は、中国、日本、韓国へ行きます。現地の言語でのシステムも開発します」とジョーンズは話す。

現在、地球をすべて覆うこのシステムには英語3語の組み合わせで住所が決められている。それを、モンゴルで実行したように、アジアの3か国でも現地語で作っていくというのだ。その中で一番難しいのは、使ってはいけない言葉を見つけ出すことだという。複数の意味を持っている語や、罵りに使う言葉も避けなければならない。「制作段階でそういう語は除外していきます。そして、アクセントにも注意します」



W3W社のスタッフは現在15人だが、年内に30人位まで増やそうと計画されている。壮大なアイデアのアプリケーションだが、メインテナンスはそれほど必要ではないそうだ。

これまでこのアプリを採用した組織や企業、モンゴルやナイジェリアといった国々は、使っていくうちにこのシステムがいかに有効かを学習した。顧客対応も向上させ、コストを削減でき、何よりも人命を救うことができる、とジョーンズは胸をはる。

彼らは、W3Wをグローバル・スタンダードとすることを使命と考えている。ただし、今のところ銀行口座を開くなど法的な用途では使えない。でも、これからはW3Wを採用するメルセデス車に乗っていれば、もう道に迷うことがなくなることは確実だろう。

国際モータージャーナリスト、ピーター・ライオンが語るクルマの話
「ライオンのひと吠え」過去記事はこちら>>

文=ピーター・ライオン

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事