第一線で活躍する「変わった人」を生む環境とは

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第一線で活躍する人に共通する経験

先日、ニコニコ動画で、3人の変人が語る「変人論」という番組の司会を務めさせていただきました。変人と言っても、この番組での定義は、「自分らしさを活かし、伸ばしたことで成功をおさめている人」。つまり、誰もがなれる存在なのですが、それを伸ばしてきた人とって意外と少ないですよね。

出演者の3人はまず、慶応藤沢キャンパス創設当時からの人気教授で、環境情報学部の学部長を務められていた同大名誉教授の熊坂賢次先生。続いて、起業と売却を経験したのち、シンガポールから日本に投資を行っているエンジェル投資家の加藤順彦さん。そして、ピザーラやメルカリ、東急リバブルのCMを手掛けている売れっ子広告クリエイターの松尾卓哉さん。そう、豪華な変人メンバーだったのです。

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(写真左から)松尾卓哉さん、加藤順彦さん、熊坂賢次さん、筆者

3人の共通点は、20代の前半までに、自分が変人だと感じなくてもよい環境で過ごしていた、もしくは、変人をより強化する環境で過ごす時代があったということです。変わり者が集まると、変わっているほうが普通で、逆に普通の人がおかしく思えてくる、と。

加藤さんは大学時代に学生起業をしている集団に巻き込まれ、サークル活動のように自動車の合宿免許の会社を運営。その頃のメンバーはみな「起業しないで就職するなんておかしい」という考えで、加藤さん自身、起業したから今の自分があると言います。

松尾さんは電通のクリエーティブからキャリアをスタート。私もかつて働いていましたが、当時(90年代半ば)のクリエーティブは本当に才能の集団でした。みなさんとんでもなくぶっ飛んでいて、夜中に来て朝に帰る人、毎日タンクトップで出社する人、ローラーブレードで社内を滑っている人など、駆け出しのマーケティング・プランナーだった私は驚きの連続。松尾さんはそんな環境にどっぷり身を沈めておられたわけです。

熊坂先生はタモリさんと同級生の麻雀仲間。「彼の若き日の芸『4カ国語麻雀』は、徹マンをしたときによく練習していたもの。本当は、もっと面白い芸だったよ」と言います。もっとも、タモリさんは仲間の中でも一番の変人だったそうですが、とにかく周りもバンカラで「大学を4年で出るのはカッコ悪かったのに自分は卒業してしまったから、進学するしかなかった」と言います。

つまるところ、自分が社会人としてのアイデンティティを作る最も大事な時期に、周りに変わった仲間がいて、「自分は普通だな」と思える環境にいたこと。多様な価値観を受け入れてくれる場所で自分らしくいられたことが、その後の活躍のきっかけになった、と3人は口を揃えます。

しかし、3人の「変人」であることへの肯定感には賛同するものの、「自分らしくいられる仲間や環境に出会えるまで強く自分を持って頑張ってほしい」「強くいないと、“変”が削り取られてしまう」という考えには違和感を感じました。

多様性への理解を養える教育

二十歳前後まで強くいなくては自分の「変」が生きる集団に出会いにくいのか? 自分の経験ではそれが中高生時代に実現されていただけに、改めて国立附属の教育は第一線で活躍する人材を生み出せる場所なのではと思ったのです。

日本の中だけで生きられるなら「みんなと同じ普通のこと」ができればいいかもしれませんが、これからは世界との関わりが増えていく時代。世界の価値観は驚くほど多様で、日本から見たら「変」なことだらけです。その多様な世界で生きるうえで、許されないことは何なのか。多様性を理解する力がないと、それを見極めることは難しいです。

最近では、多様性への理解を養える場所を求めて、子どもをインターナショナルスクールに通わせたり、家族で移住をする人も増えています。例えばシンガポールの小学校では、文化によって正義感が違うこと、その違いに優劣はないことを心で理解させる教育を行っていると聞きました。いろいろな国の人が集まっているため、各家庭で何をしたら褒められるか、怒られるかという話をするだけでもかなりの事例が集まり、すぐに価値観の多様性を実感できるのだそうです。

ただ、日本にいても、小学生の頃からシンガポールに移住しなくても、高い学費を出して私立校に行かなくても、頑張って自分らしさを守ろうとしなくても、私のいた環境では、多様性を理解することができました。出身校の卒業生に、外資系の企業で活躍するいわゆるエリートが多いのは、この教育環境によるところも大きいのではと思います。

だからこそ、この環境を壊しかねない「国立大学の附属校の入学者を抽選だけで選ぶ」提言には疑問を感じ、慎重に考えていただきたいと願うばかりです。

文=武井涼子

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