ビジネス

2017.09.14

あえてターゲティングしない「インクルーシブ・マーケティング」

インクルーシブ・マーケティング(illustration by Kenji Oguro)


つい先日6月初旬に期間限定のプレオープンをした、認知症のおばあちゃんたちが店員の「注文を間違える料理店」は、ハンバーグを注文したら餃子が出てくることをエンターテインメントに昇華したレストラン。過去に認知症介護のプロのドキュメンタリーを制作したNHKのディレクター小国士朗さんが、認知症であることが固有の価値を発揮できる寛容の場を創造した。

ややもすると「社会的弱者」としてレッテルを貼られる人たちが連携し、外の世界に開いていくことで生まれる新たな力を感じる。今年9月の本格的なオープンを目指しているという。


「注文を間違える料理店」。フォーブス ジャパンWebで好評連載中の筆者・小国士朗氏による好企画。


「スポーツ弱者を、世界からなくす。」を標榜する、世界ゆるスポーツ協会も、かなりインクルーシブ・マーケティング志向だといえる。誤嚥性肺炎のリスクが喧伝されるなか、「トントンボイス相撲」は発する「トントン」の声に合わせてステージが振動し、紙相撲力士を動かすことができる。声を出すことで、高齢者に必要な「喉のリハビリ」になる新しいスポーツ。今後増大する社会保障費の抑制を考えれば、「ゆるさ」が日本を救うのかもしれない。

インクルーシブのターゲットは、何も赤ちゃんや高齢者、障害者に限らない。何不自由ない人であっても時に社会的弱者になる。特に災害時がそうだ。旭化成ホームズでは昨年の住宅展示会で「二世帯の防災」という冊子を無料配布した。親(高齢者、要介護者、障がい者)、子(女性、妊産婦・幼児)、それぞれへの配慮を通して、家を中心に普段からの安心・安全を考えさせる内容になっている。いわば、多様なる他者に自分もなりうるという想像力を働かせることが、マーケティングになるのである。

「インクルーシブ・マーケティング」の対立概念は「エクスクルーシブ・マーケティング」、つまり排他的なマーケティングである。FacebookやGoogleが先導するデジタル広告の領域において、精度を求める余りの過度なターゲティング広告が問題視されてきている。効率的に短期の効果は上がっても、潜在顧客には届くことができず、中長期的に顧客価値を最大化しているとはいい難い。

では、現在、最も成果を挙げたエクスクルーシブ・マーケッターの名前を挙げろと言われたら、迷わずドナルド・トランプと答えるだろう。「インクルーシブ・マーケティング」は電通ダイバーシティラボのコンセプトとして、近日中に発表予定である。

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田中宏和◎電通ビジネス・クリエーション・センター パブリック事業推進1部長、コミュニケーション・プランニング・ディレクター。同姓同名収集家として一般社団法人「田中宏和の会」代表理事。

文=田中宏和

この記事は 「Forbes JAPAN No.38 2017年9月号(2017/07/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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