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田坂広志の「深き思索、静かな気づき」


この機微を、哲学者のヴィトゲンシュタインが『論理哲学論考』という著作の中で、次の言葉によって語っている。

我々は、言葉にて語り得ることを語り尽くしたとき、言葉にて語り得ぬことを知ることがあるだろう。

これを読み替えるならば、次の言葉となる。

我々は、論理にて究め得ることを究め尽くしたとき、論理にて究め得ぬことを知ることがあるだろう。

このヴィトゲンシュタインの言葉が教えるように、直観力を身につけるためには、実は、論理思考に徹することが一つの道なのである。では、論理思考に徹したとき、我々の意識に何が起こるのか。

そのことを教えてくれるのが、やはり将棋の世界の羽生善治棋士のエピソードである。羽生棋士は、かつて七冠を獲得した直後のテレビでの対談において、若手哲学者に「対局中、どういう心境なのですか?」と聞かれ、こう答えている。

「ええ、将棋を指していると、ときおり、ふっと『魔境』に入りそうになるんです」

この「魔境」とは、心理学用語で言われる「変性意識状態」(Altered States of Consciousness)のことであり、直観力や洞察力、大局観など、人間の高度な能力が発揮される意識状態のことである。

そして、この「変性意識状態」に入るための一つの道が、ここで述べた「考えて、考えて、考え抜く」という論理思考に徹する技法であるが、もう一つの道が、論理思考の対極にある、座禅や瞑想という古来伝えられてきた技法である。

されば、この二つの道を同時に歩むとき、何が起こるか。そのとき、我々の能力に、想像もしていなかった変化が起こる。

田坂広志の連載「深き思索、静かな気づき」
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文=田坂広志

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