英語習得が必ずしも万国で歓迎されない理由

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私が数十年前、欧州駐在ジャーナリストとしてキャリアを開始したとき、フランス語はまさに世界共通語で、民主主義・文化・政治の言語だった。

その地位は現在、英語に取って代わられた。ここで言う「英語」は、英国英語や「アメリカ英語」と呼ばれる変種のことではなく、私が「インターネット英語」と呼ぶものだ。単語や表現が増え続けるこの新たな共通語を使えば、まさに世界中の人とコミュニケーションが取れる。

米経済専門チャンネルCNBCのパリ支局長を務めた5年間、私はフランスの大企業のリーダーの英語が「ぎこちない」から「流ちょう」へ進化するのを目の当たりにした。社会党のフランソワ・ミッテラン政権下で国営化された企業が民営化された時代で、世界のリーダーになることを目指した同国の取り組みの一つが英語力向上だった。

その結果、仏保険大手のアクサは世界最大級の金融サービス企業へと成長し、仏広告大手のプブリシスは通信事業で世界第4位となった。現在、国際的なビジネス界での意思疎通には英語が必要なのだ。

「私のジョブ」

英語は他言語に急速に浸透している。フランスでは「新聞」を意味する「ジュルノー(journaux)」と同じくらい頻繁に英語の「マガジン(magazines)」を使用し、「私の仕事(mon boulot)」と言う代わりに「私のジョブ(mon job)」と言ったり、別れの際に「オルボワール・バイバイ(au revoir bye-bye)」と言ったりすることも珍しくない。

このグローバル化の流れに対しては、コミュニケーションに新たな共通語を必要とする企業のリーダーや世界を渡り歩く人々を除き、大きな反発が生まれた。その始まりは、仏政府がフランス語と文化の保存のために政府公式文化機関「アンスティチュ・フランセ」を設立した1907年までさかのぼる。現在、このフランス語保全の「とりで」は、フランス語話者のむやみな英単語使用を止めるべく奮闘している。

フランスが現在力を入れる起業分野ではそうは行かず、「かわいらしい」努力に終わりつつある。しかし8年ほど前にフランスで開催された英語の投資会議では、パネリストの一人だったジャンピエール・ラファラン仏首相(当時)が、フランス語話者の参加者が英語を話すよう強制されていることに対する怒りを舞台上で爆発させたこともある。
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編集=遠藤宗生

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