賃金の平等を誓約した企業にはこれまで、人種や民族、性別による賃金の格差をなくすための行動について政府に報告することが求められていた。だが、こうした報告には効果がなく、企業にとっては単なる負担にすぎないのか、あるいは「企業国家アメリカ」全体にはびこる賃金格差を最終的に解消するため、透明性を高める第一歩なのか──。
この疑問に対する答えをどう考えるにしても、企業の公正な行動として米国市民の多くが真っ先に挙げる点の一つが、賃金の平等であることは間違いない。
非営利団体JUSTキャピタルが今年に入り実施した調査の結果によると、米国民の71%は、「企業は平等に給与を支払わなくてはならない」と考えている。68%は「公正な企業は採用、解雇、昇進において差別してはならない」と回答。支持政党別に見ても、民主党員の72%、共和党員の74%が、「賃金における差別は良くない」と答えている。
また、JUSTキャピタルが上場している大企業920社について行った調査によれば、賃金の平等について詳細な調査を行うと約束し、実際に多様性の推進と賃金の平等を実現するための方針を定めている企業は、72社にとどまっている。また、これらの企業の中で、性別による賃金格差の有無に関する社内調査の結果を公開している企業は、17社にすぎない。
一方、こうした情報を公開している一社のIT大手、シスコシステムズは2年前、賃金の平等につながる包括的な対策を積極的に推進する方針を決定。すでに健全で公平な給与体系を整えており、賃金格差は小幅に抑えられているという。世界全体でも、賃金の見直しを同社側に求めた従業員は、わずか1%程度にとどまっている。
また、顧客関係管理(CRM)ソリューションなどを提供するセールスフォースも昨年、(シスコシステムズと同様、オバマ政権の)ホワイトハウスの呼び掛けに応じ、賃金の平等を目指すとの誓約書に署名した。セールスフォースは今年4月、「従業員の11%について給与の調整を行い、明確な理由のない不平等な賃金の解消に約300万ドル(約3億2900万円)を費やした」ことを明らかにしている(ホワイトハウスのウェブサイトからは、この誓約に関する記載がいつの間にか消去されている)。
賃金の不平等を解消するための努力を行ってきた企業は、称賛に価する。この問題に対策を講じることは、容易なことではないからだ。まずは過去の歴史について詳しく調べ、現状とそこに至った経緯、変化を起こすために何が必要であるかを検討し直さなくてはならない。また、変化のためには文化を変える必要がある。それは政府、企業のリーダー、従業員たちの全てにとって、痛みを伴う場合もある困難な課題だ。
それでも、これほど多くの米国人がこの問題の解決を求め、社会問題に対する企業の行動に関してより一層の説明責任が求められる中で、これは無視することが許されない問題だ。多くの企業のリーダーたちが取り組みを始めていることは、理にかなっているといえる。