そんな中経済産業省は2016年4月、「新産業構造ビジョン」の中で、「人工知能(AI)により認識・制御機能を向上させた医療・介護ロボットの実装が進み、医療・介護現場の負担を軽減」するという、産業変革の方向性を示した。超高齢化社会に向けて、政府が本格的に腰を上げた形だ。
それでは、日本の介護現場では実際に、どのような形でAIが活用されているのだろうか? 今回はその実例をいくつか挙げてみたい。
介護専門企業もAIに着手
まず、政府が実装化を進めると示した介護ロボットについては、例えばMJIが開発したコミュニケーションロボット「Tapia(タピア)」が注目を集めている。Tapiaには遠隔からの見守り機能や、AIによる会話、生活サポート機能が搭載されているほか、危険を自ら判断し知らせる機能も搭載予定だ。
同社は今年2月、スパークス・グループが設立した「未来創生ファンド」などから、総額5.64億円の資金調達を実施したことを発表。調達した資金は、Tapiaに搭載されるAIの研究開発をさらに強化すること、また国外での販売促進に使われると明かされている。
2015年創設のアースアイズは、見守り機能付き3Dカメラ「アースアイズ」を開発。今年1月から店頭設置が開始されており、将来的には家庭用が発売される見込みだ。アースアイズは、設置位置から半径8mの撮影範囲内における人の行動を「五感センサー」で捉え、普段と違う動きをしているかをAIが識別、危険を察知してくれる。例えば転倒やうずくまり、異常音などを感知し、介護者に変わって知らせてくれるというわけだ。
また、介護大手のセントケア・ホールディングスは今年4月、産業革新機構などと組み、介護現場でのAI導入に向けた新会社、シーディーアイを設立したと発表した。要介護者の体調や症状にあった介護サービス計画を作成する技術を開発し、来春から介護事業者などに売り込むという。介護の専門企業がAI導入に着手するのは初めてであり、その動向が注目されるところだ。
認知症対策にAIを活用
政府が掲げたビジョンの通り、介護現場に重要な見守り機能についてはさまざまな形で実装されつつある。しかし、日本の介護における大きな課題として、認知症患者への対策も無視できないだろう。厚労省は2025年には日本の認知症患者は700万人を超え、高齢者の5人に1人が認知症になると推測している。