泡か、白か、赤なのか。フランスのワインを選ぶか、それ以外の国のものにするか。軽め、重め? 樽香がしっかり効いたタイプ、それとも果実味豊かでフレッシュなもの?
なんとなくの好みはあるものの、それを言語化するのは面倒くさいし、第一ヘタなことを口にしてバカにされてはかなわない。結局「このくらいの値段で」とリスト内の価格を指差し、「なんかおいしいもの選んでください」とおまかせするはめになる。もちろん「餅は餅屋」というわけで、ワインのことはソムリエに聞くのが間違いない。その日の料理や懐具合に合わせて最良の選択肢を数本すすめてくれることだろう。
さあ、ワインは選んだ。次にくるハードル、それは「テイスティング」である。「お味見はどうなさいますか」と聞いてくれるケースはまだいい。「Go ahead」とばかりに軽く手の平を差し出し、うなずけば、ソムリエはテイスティングは不要なものと了解し、ゲストのグラスに先にワインを注いでくれるはずだ。
問題は黙ってチョビッとワインを注がれてしまったとき。「仕方ない」と腹をくくり、まずグラスを傾け(色を見ているフリ)、鼻をグラスに差し込み(香りをかいでいるフリ)、ちょっと口に含んでチュクチュク(うがいしないように気をつけて!)…ゴクンと飲み込んでからしかるべく時に頷けば儀式は終了。自分が少し滑稽に思えてくる瞬間だ。
もちろんワイン愛好家にとってテイスティングは真剣に行うべきものだし、ブショネ(コルクがTCAと言うカビの影響で産まれた物質に汚染されワインに匂いが移る品質不良)などの劣化は常に数パーセントの割合で起こるため、きちんとチェックしたほうがいいのは確か。ただ、ワインに詳しくないと自認するカスタマーにとってはどうだろうか。
私自身がお店でテイスティングをする際には、なぜか脳裏に「茶番」という二文字が浮かんできて困ってしまう。多くの人は「おいしければいい」のだし、酒はそれ自体の味だけではなく、どこで、誰と飲むか、どんな料理とあわせて飲むかによってもその評価を大きく変えてしまう、ある種魔物なのだから。
そんなわたしのような天邪鬼的ワインドリンカー(愛好家とは呼べない)にとって、救世主となるのが「ペアリング」である。ここ数年、レストランでおまかせメニュー6000円などとある横に、「ペアリングコース10000円」などと書かれている、それである。