国後島へは、同じサハリン州に属するユジノサハリンスクから定期便が飛んでいて、豊富な北方の自然を生かしたエコツアーが用意されていた。
ロシア側が打ち出す北方四島ツアーのキャッチフレーズは「手付かずの大自然」や「冒険」。オフロード車に乗って択捉島の指臼岳の温泉を訪ねたり、美しい入り江にボートを浮かべて釣りをしたり。晴れた日には北海道から見えるという国後島にある北方四島の最高峰、爺々岳(標高1882m)や泊山(ロシア名:ゴロヴニン火山)のカルデラ湖周辺をトレッキングしたり。魅力的なスポットは盛りだくさんのようだ。
国後島の観光案内。右の写真は泊山のカルデラ内の温泉湖や爺々岳など。
実際には、費用が高く、海と空の航路が安定しないため、年間ロシア人が500人にも満たない程度。中国や韓国、欧米の旅行者もいるが、数人ほどと聞く。
現地の旅行会社を直接訪ねたところ、これらの北方四島ツアーは、グループに限り、日本人も参加できるという。サハリンで入境許可書を発行するには2ヵ月かかるそうだ。もっとも、ロシア側はウエルカムでも、日本政府は主権の問題がからむため、これまでどおり、北方四島に入境しないよう自国民に要請するという立場だろうか。
サハリンのロシア正教会では毎週日曜の朝、厳かなミサが行われている(佐藤憲一撮影)
今月下旬に予定されている元島民の空路による墓参(当初は6月の予定が、濃霧で延期)では、日本からのチャーター便で国後島の空港に日本人が初めて降り立つことになる。この件を「人道的」扱いとみるロシア側と北方領土返還の布石に見せたい日本側の認識はかけ離れている。
なぜなら、ロシア人の頭には、サハリン州がクリル(千島)諸島とサハリン島のV字型のシルエットとしてしっかり焼きついているからだ。昨年の戦勝70周年の記念ポスターを見てもそうだし、教育やメディア、観光方面でも、当然のように、北方四島はサハリン州の一部とされ、すでに70年以上の時間が経過しているのだ。
サハリンで売られているチョコレートのパッケージの地図には、北方四島がサハリン州の一部として組み入れられている
こうした現実を皮肉まじりではなく、まっすぐ受けとめたいものだ。
リスクの大きい経済交流はともかく、観光を通じた人的交流を進めることは、極東ロシアの親日的な雰囲気を合わせて考えると、双方にとって意味があるのではないか。現状では誰のための「ツアー開発」なのか判然としないが、日本人の手にかかれば、ロシア側の北方四島ツアーよりも多彩で面白いツアー企画を打ち出せるはずだ。ウラジオストクには日ロの文化交流を新しいステージに誘ってくれそうな友好的な人材もいる。
これまで我々が想像していなかった相乗効果が生まれるかもしれない。