スウィフトは先日、チケット販売会社のチケットマスターによる個人認証の仕組み「Verified Fan」の導入をアナウンスした。これはチケットを購入する場合、事前の個人情報の登録を必須とするもの。ブルース・スプリングスティーンらの有名アーティストも既にこの仕組みを取り入れている。
しかし、スウィフトの「Taylor Swift Tix」はこの認証システムよりも、さらに一歩踏み込んだ試みだ。チケットが欲しいファンたちはサイトに登録した後「ブースト・アクティビティ」という活動に参加することでチケットが取りやすくなる。
報道によるとそのアクティビティの中には、スウィフトの動画を視聴することや、ソーシャルメディアに投稿を行うこと、さらには新アルバムの「Reputation」を最大で13枚購入することなどが含まれている。
このプログラムについては、「あまりにも儲け主義に走りすぎている」として一部のファンや関係者から反発の声もあがっている。
筆者としても批判が出るのは当然だと思うが、1980年代にアメリカンエキスプレスが「メンバーシップによる特典」を打ち出して以来、会員制はマーケティングの分野で必須の戦略となっている。
チケット販売において「会員制」の導入はあらゆる分野で進んでいる。NFL等のスポーツでも、人気チームの試合のチケットの確保にはファンクラブへの入会が有効な手段だ。大手映画館チェーンも独自のクラブ制度を設ける動きが広まっており、無料のドリンクやチケットの割引、試写会への無料招待といった特典を与えている。
歴史をさかのぼれば、ラスベガスのカジノ業者が成功を収めた背景にも、ギャンブルを行う客たちに無料のドリンクや宿泊を提供してきたことがあげられる。
しかし、スウィフトの「Taylor Swift Tix」の仕組みはデジタル時代に広まる“コンテンツの民主化”という考えには明らかに対立するものであり、若い音楽ファンたちが反発の声をあげるのも当然なのかもしれない。
ただし、デジタルエコノミーの新潮流のなかで消費者が何に“本当の価値”を見出すのかを探る上で、これは理にかなった取り組みだ。人気のミュージカルのチケットが転売市場で800ドルを超える高値で販売されるのが当り前になった今、それに代わる手段を模索することには少なくとも意味がある。