日本の読者にはあまりなじみがないかもしれない。ウォータービル・ゴルフ・リンクスといえば、アイルランドでは、ケリー州の観光名所にある風光明媚なリンクスとして広く愛されているゴルフ場だ。
ウォータービルのホームページによると、世界のゴルフコースのうち「True Links(真のリンクス)」と呼ばれるものは1%未満であり、その85%が英国とアイルランドに集中しているそうだ。「アイルランドではウォータービルが最高峰、英国領である北アイルランドならばロイヤル・カウンティダウン・ゴルフ・クラブがナンバー1」との記述があるのもうなずける。
1889年、9ホールで設立されたウォータービルは、アイルランドのゴルフ連盟と提携する最初のクラブのひとつとなった。大西洋に面した素晴らしい地形をもつ理想的なリンクスだったが、名コースとしての評価が高まったのは、50年代にジョン・マルカーイーがクラブを買った後のことだ。
彼には、このリンクスを世界で最も挑戦的なものにしようというビジョンがあった。彼は親友であり、48年のマスターズ・トーナメントのチャンピオンでもあるクロード・ハーモンと、設計家のエディー・ハケットに、新たなコースの設計と監修を委託。二人の協力により、73年、現在の基となるコースと新しいクラブハウスがオープンした。
2006年にトム・ファジオがコースの改造に着手。4年の歳月をかけて、海岸の保護に配慮しながら全体を整備し、特に弱いといわれていた6番、7番ホールを改修した。
トム・ファジオは、オーガスタ・ナショナル・ゴルフクラブの改造にも関わった著名な設計家であり、私が所属している霞ヶ関カンツリー倶楽部の東コースの設計も手がけている。2020年、東京オリンピックのゴルフ競技会場となる予定のコースだ。
ウォータービルは、大西洋、カレイン湖、マギリカディーズ・リークス山地に囲まれた独特な地形にある。釣りのメッカとしても知られ、リンクスにほど近いウォータービル・ハウスに宿泊すると、近隣の町の川や湖で釣りをする権利が得られる。
20世紀には、大名優のチャーリー・チャップリンが毎年家族を連れてきていた名門リゾートだ。1984年からは、生前のチャップリンが行っていたゴルフコンペを継承した「AM AM」という名の2日間コンペが開催されており、今ではアイルランド中からゴルファーが集まってくる名イベントとなっている。
また、かつて全米プロゴルフ選手権などで3勝を挙げたペイン・スチュワートは、ウォータービルの美しさに惹かれ、全英オープンの参加前に必ず練習にきていた。残念ながら、彼は99年の全米オープンを制した4カ月後に不慮の飛行機事故で帰らぬ人となってしまったが、その記念として、00年、クラブハウスとティーグラウンドの間に銅像が建てられた。ゴルフファンとしては悲しくもあり、うれしくもある話だ。