ビジネス

2017.09.08

ロレアルが「グローバルな人材育成」に成功している理由

(左から)デロイト トーマツ コンサルティングの日置圭介氏、日本ロレアルのジェローム・ブリュア氏、早稲田大学大学院の入山章栄氏


ブリュア:各国のチームがP&L(損益計算書)を背負い、起業家集団のように動く。そうしたローカルでの「創造性」を、世界中のどこからでも拾い上げるネットワークの力にこそ、ロレアルの強みがあると思っています。

また、ロレアルが意識しているのは「ブランド・ポートフォリオのバランス」です。大きく分ければ、ラグジュアリーなブランドで重要なのは「ブランドの一貫性」。大衆的なブランドでは、「ローカルへの適応性」です。この判断軸を前提に、ブランドを統括するゼネラルマネジャーと、各国のマネジャーが戦略とアイデアをぶつけ合うわけです。

入山:ロレアルの競合にあたる日本企業がなぜグローバル化できないのか。その理由が、大きく2つあるといえます。まず、(1)自分たちの商品を大衆向けの「消費財」と認識しているために、日本というローカル市場では競争力を持てるが、グローバルでは戦えないこと。

そして、(2)グローバル・多部門で意思決定をした経験を持つマネジャーを育成していないことです。こうした問題点への自覚なしで、日本企業が表面上の「グローバル化」を目指しても、なかなかうまくいかないのでしょうね。

ブリュア:ロレアルは、まずグローバルなビジネスに相応しい人材を開発します。グループ内の国際的な人材プールに、買収した企業が抱える課題を解決できる人材がいると判断すれば、買収を実施しています。

例えば、ロレアルがメイベリン ニューヨークを買収したのは、96年のこと。既にヨーロッパ、アメリカ、日本で大きな市場を持つグローバル企業であったロレアルには、多様な顧客のいる市場で商品を売る「ノウハウ」と、グローバルな市場で意思決定のできる「人材」の両方があったため、メイベリン ニューヨークのブランド展開は成功しました。

その結果、キールズやレッドケンといったアメリカ企業をポートフォリオに加え、中国、ロシアをはじめとした東欧、ラテンアメリカなど、新たに市場が開放されたことにより、進出していくことができました。

日置:90年代、フランス発のグローバルブランドの座に甘んじることなく、他のブランドと手を組む「拡大路線」へのシフトに成功したロレアル。見事に「トランスナショナル型」へと進化した企業のお手本であるといえるでしょうか。最後に今後のロレアルのチャレンジについて、教えてください。

ブリュア:それは、デジタル化です。歴史上、あらゆる種類の美しさを求めるニーズは、「社会的な美しさ」から生まれました。今、ソーシャルメディアは新しい「社会的な美しさ」へのニーズを創りだしています。タイムライン上でより美しくなりたい。そうした新たな美への欲望が生まれていることを、非常にポジティブに考え、過去3年間で、1000人以上のデジタルスペシャリストを世界中で採用しました。

私たちは、消費財や食品を扱う競合他社と違い、「美」だけをビジネスとする「真のビューティーカンパニー」です。時代の変化を敏感にとらえながら、今後も「すべての人生に、美しく生きる力を。」というビジョンを追求していきます。


ジェローム・ブリュア◎日本ロレアル代表取締役社長。仏パリ出身。1989年EDHEC経営大学院修了。91年ロレアル入社。2010 年ロレアル ドイツ社長、13年メイベリン ニューヨーク国際事業統括責任者。15年7月より現職 。

入山章栄◎早稲田大学大学院経営管理研究科准教授。著書に『ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学』など。

日置圭介◎デロイト トーマツ コンサルティング執行役員パートナー。早稲田大学大学院会計研究科非常勤講師。

文=山本隆太郎 写真=マーティン・ホルトカンプ

この記事は 「Forbes JAPAN No.38 2017年9月号(2017/07/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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