ビジネス

2017.09.08

ロレアルが「グローバルな人材育成」に成功している理由

(左から)デロイト トーマツ コンサルティングの日置圭介氏、日本ロレアルのジェローム・ブリュア氏、早稲田大学大学院の入山章栄氏


入山:ロレアルのこの育成手法が優れているのは、不確実な状況で意思決定をする機会を、次世代の経営層に存分に与えている点です。日本企業では、実際に意思決定を行う立場になるまで、1つの部門しか知らずに昇進することが多いため、経営幹部になっても不確実な状況への対処能力が不足しがちです。

日置:有望な人材に世界各地を巡るキャリアパスを与え、ローカル市場の多様性を徹底的に叩き込みつつ、複数の部門で意思決定の機会を与える“立体的” な人材育成。平面的に見える日本企業のそれと比較すると、いまの時代への有用性の違いは明らかです。

ブリュア:ロレアルグループの会長兼CEOのジャン-ポール・アゴンは各国を訪れる際、「この国で成長している『次世代のマネジャー』として有望な人材は」と必ず質問します。この振る舞いが、さらなる活躍を目指す優秀な社員たちの能力を上げる大きな要素であると考えています。

入山:100年以上の歴史のあるロレアルは、グローバルで一貫した価値のあるブランドを数多く持っています。なぜ「普遍的なブランド力の保持」と「ローカル市場の多様性への適応」が両立できているのでしょうか。

ブリュア:それは、人材育成などを通して、「ユニバーサリゼーション」というバリューが全社に浸透しているからです。アゴンCEOは、「ユニバーサリゼーション」を「グローバリゼーションの次の段階」と定義しています。「ユニバーサリゼーション」とは、自社の持つ非常にグローバルなブランド・メッセージ・戦略に柔軟性を持たせ、あらゆる状況に対応させるという発想なのです。

普遍性が重要な会社のビジョンさえも、現地に柔軟に適応させます。グローバルでのビジョン「Beauty For All」を、日本法人では「すべての人生に、美しく生きる力を。」という少し違った言葉で再定義しているのが一例です。

日置:企業経営において、ビジョンは、ただ掲げられるだけで、実態を伴わずに形骸化してしまいがちです。ブランドの「普遍性」と「多様性」への対応を両立させる「ユニバーサリゼーション」という優れた戦略と、それを世界中の市場をローテーションさせる中で体感させる人材育成の仕組みがあることが、ロレアルの強みですね。

入山:実は「グローバルへと進出する際のローカル適応を、欧州企業から学ぼう」というのは、本連載の大きなテーマ。グローバル統合とローカル適応の2軸で企業を分類する「I-Rフレームワーク」で考えると、欧米の優良グローバル企業の多くは、グローバルとローカルの経営的利点の両方を最大化する「トランスナショナル型」へとシフトしています。そして、その「トランスナショナル型」を地でいくのが、ロレアルだといえますね。

ブリュアさんはこれまでに、グローバルとローカルという2つの経営的利点を活かしての成功体験はありますか。

ブリュア:私が日本でメイベリン ニューヨークの担当時、美容液・保湿クリーム・ベースメイク・ファンデーション・日やけ止めを兼ね備えた「BBクリーム」が、韓国からの輸入をきっかけに、日本で流行っていました。この製品に可能性を感じた私はすぐさま、メイベリン ニューヨークのブランドマネジャーに商品化を打診。日本では、メイベリン ニューヨークというグローバルなブランドのUSP(ユニーク・セリング・プロポジション)の助けを借り、大成功を収めていました。数カ月後には、ブランドマネジャーが世界展開を決断。結果、メイベリン ニューヨーク躍進の大きな原動力となりました。

日置:アジアのトレンドを読み取り、ニューヨークを経由して、日本から世界的なヒット商品を誕生させる。こうしたこのローカルから学び、グローバルで開花させるビジネススタイルこそ、理想的な「トランスナショナル型」企業といえます。
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文=山本隆太郎 写真=マーティン・ホルトカンプ

この記事は 「Forbes JAPAN No.38 2017年9月号(2017/07/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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