「どうしたら、みんなをひとつにまとめることができるのだろう」
本書を初めて手にした中学時代、学級長を務めていた私は、バラバラだったクラスをまとめられずに四苦八苦していました。当時はきっと、藁にでもすがる気持ちだったのでしょう。家の本棚で偶然に見つけた本書を、夢中になって読み進めました。
発売から80年たった今でも書店に並び続けるこの本は、ビジネス書の原点ともいえる一冊です。「人を動かす」、「人から好かれる」、「人を説得する」、「人を変える」を大項目に、それぞれに必要な事柄を、合計で37個紹介しています。
実在する人物の行動を交えながら説明されているため、とてもわかりやすく、読み終えたあとは、書かれていた37の事柄を手書きで小冊子にまとめて、何度も何度も読み返しました。
そうすることで私は自然に、自分の論理を通そうとするのではなく、まず先に人の話を聞き、相手がなぜそうしたいのかを優先して考えるようになりました。その結果、体育祭のときにリーダーを務めた“運動が苦手だった仲間を束ねて作ったチーム”が、奇跡の準優勝をしたり、ギクシャクしていた友人の年賀状に、彼の長所を書き添えたことでわだかまりが一気にほぐれたりしたこともありました。
当時は、書かれていた項目を実践することで「人が変わった」と思っていたのですが、本当に変わったのは、私自身。まさに、人間形成の根幹にある一冊だと言っていいでしょう。
“本”は、こぎ出した船の行き先を指し示す、羅針盤のようなものです。
経営者になってからたくさんの本を読みました。会社が100あれば経営方法は100通り、経営者が100人いれば経営手法もまた100通りです。経営は常に独学で、しかも勉強すべきことが次から次へとやってきます。だからこそ、先人たちの言葉を読み、ヒントを得て実践し事業を成長させてきました。仕事のスランプは、結局、その仕事を解決することでしか抜け出せないのですから。
社内には経営陣お薦めの書籍を貸し出す、図書コーナーを設けています。仕事にかぎらず、新しいことにチャレンジするときには誰しも必ず壁にぶつかります。そのとき、やりがいと情熱を失うことなく、前に進み続けるための羅針盤として、本が役に立ってくれるはずです。また、当社では社是のひとつとして「一人一人が社長」を掲げています。読書という自己投資を通じて、自立心や創造力を育み、自発的に仕事に取り組む高いモチベーションも保ち続けることができるでしょう。
私が本から何を学び、どのように実践したかをまとめた『読書力鍛え方の流儀』が6月末に発売されました。『人を動かす』の他、多くの名著を取り上げています。皆さんが抱えている課題を解決するためのお役に立てればうれしいです。
title:人を動かす
author:D・カーネギー
data:創元社文庫 650円+税 320ページ
はちみね・のぼる◎1967年生まれ。1991年早稲田大学商学部卒業後、森ビル入社。94年同社退社後、デカレッグス(現オプトホールディング)設立。2004年ジャスダック上場、13年東証一部上場。著書に『役員になれる人の「読書力」鍛え方の流儀』など。