なぜジェームズ・ボンドは「目立つクルマ」に乗るのか

ASTON MARTIN DB11 photograph by Tsukuru Asada (secession)

アストンマーティンといえば、映画『007』。そしてジェームズ君が駆るボンドカーのなかでも、もっとも有名なのが「DB5」だ。名作『ゴールドフィンガー』で秘密兵器を搭載して大活躍し、23作目の『スカイフォール』にも登場する。

なぜ、スパイが目立つクルマに乗るのだろうか? という疑問はごもっとも。冷戦の時代に海外で諜報活動をするということは、上流階級に属する人たちにとけ込む必要があり、高級車はむしろ必需品。裏を返せば、イギリスでアストンマーティンに乗ることは、「上流階級の人間である」ことを示唆する。

ロンドンから約1時間ほど郊外に向かったアストンマーティン伝統の地、ニューポート・パグネルを訪れると、そのプレステージの高さが実感できる。そこには歴代モデルのほとんどが現存しており、裕福なオーナーたちの手でレストレーションを施されている。

1947年、中興の祖であるデイビッド・ブラウン卿は、わずか2万500ポンドで小さな自動車メーカーだったアストンマーティン社を購入し、数年の間に世界の有名レースで成功をおさめるまでに成長させた。ちなみに彼の妥協のないクルマづくりは有名で、あるときブラウン卿の知人が「友だちなんだから、原価で売ってくれよ」と頼んだところ、「じゃあ、販売店でつけている売り値より高いよ」と答えたという逸話がある。

そんなブラウン卿のイニシャルが冠せられた「DB」の精神は、最新の「DB11」にも連綿と受け継がれている。クラシックななかにフロントに搭載されたV12ユニットは、5.2Lに“ダウンサイズ”されているが、ターボによる過給で最高出力608ps/最大トルク700Nmを叩き出す。アクセルペダルにのせた右足を踏み込んだ刹那、体がシートに押し付けられるような加速感だ。エンジン回転数の高まりとともに、官能的な排気音が背後で響き渡る。

伝統的なスポーツカーのフォルムではあるが、現代風にアップデートされた外観は、鬼才、マレク・ライヒマンの手による。まさに、英国の上流階級の“今”を体感できる一台だ。

DATA
駆動形式:後輪駆動
全長:4739mm
全幅:1940mm
全高:1279mm
最高出力:608ps/6500rpm
価格:23,800,000円
問い合わせ:アストンマーティン・ジャパン(03-5797-7281)

アストンマーティン初の完全な電気自動車「Rapide E」、お目見えは2019年

アストンマーティンが初の電気自動車「ラピードE」を発売する。2019年に155台という限られた台数の生産で、車名から想起される通り、4ドア・クーペとなる。

そのパフォーマンスは、6LV12エンジンを積む「ラピードS」と同等のダイナミックなもので、同時に、理論上、スタート時に最大の加速を生む電気モーターの特徴を生かすことにより、従来のエンジン車と異なる新たなドライビング・エクスペリエンスを生むという。



この背景には、「1台あたりのCO2排出量を95g/㎞まで減らす」という欧州委員会による方針がある。一般的には、この規制に適合するには、ごく小排気量のエンジンをさらにハイブリッド化する必要があるが、アストンマーティンでは大排気量エンジンの魅力はそのままに、アストンマーティンらしさを追求したピュアEVを新たに開発し、CO2排出量を抑えながらも、新たな体験を追加する方針を打ち立てたのだ。

text by Yumi Kawabata edit by Tsuzumi Aoyama

この記事は 「Forbes JAPAN No.38 2017年9月号(2017/07/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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