トヨタ自動車、日立製作所、ホンダ、パナソニック……。工場の自動化(FA)事業やロボットで知られる世界的メーカー、ファナックがオープンプラットフォーム「FIELD system(以下フィールドシステム)」を発表すると、上記のようなトップ企業がパートナーとして参加を決めた。その数、約200社。それが昨年のことだ。しかし─。
「いま400社を超えました」
1年で倍に増えたことをファナックの会長・稲葉善治はあっさりと言う。製造の現場をつなぎ、工場を賢くするフィールドシステムについて説明するには、倍増の勢いから解読した方がいいだろう。ファナック本社で聞いた、稲葉の話から浮上するキーワードは2つ。「思想」と「時間軸」だ。
「もともと日本にはコネクテッド・インダストリーズの土壌があり、1989年に東京大学の吉川弘之先生が提唱されたIMS(知的生産システム)の国際プロジェクトが原点です。ドイツのインダストリー4.0もIMSの流れから派生したものです」
ファナックの会長兼CEO・稲葉善治氏。創業者・稲葉清右衛門の後継者として、日本を代表する工業機器メーカーを指揮する。
稲葉が言うIMSは、ベルリンの壁が崩壊した89年、のちに東大総長や日本学術会議会長を歴任する吉川弘之が提唱した。バブル景気の当時、製造業は空洞化に直面しており、何よりも冷戦体制の崩壊という歴史の変わり目に差しかかろうとしていた。世界の枠組みが変わるなか、吉川はIMS20年史でこう指摘している。
「長い目で見れば人類にとって製造業の存立が危うくなる」
危機の大きな一因が、先進国間の過当競争であり、「世界全体として見た“グローバルプロダクティビティ”の低下を招いている」と述べている。このとき、吉川が提案したのが、「プレ・コンペティティブ(競争前)技術」という概念だった。稲葉が説明する。
「競争に入る前に、体系化できていない生産技術の知識を共有化して、競争コストを低減させれば、新技術開発に投資ができます。そこで、共通のプラットフォームをつくっていこうとなったのです」
─生産知識の開放。これがIMSの思想であり、20世紀型工業モデルから脱するオープンイノベーションだった。日本を中心に、欧米、豪州、カナダ、韓国と国際スキームは拡大し、日本からは約200社が参加していたという。しかし、「当時はIT技術が伴わなかったのです」と稲葉は振り返る。ただ、思想はすでに共有されていたのだ。
それから約30年。機械の故障予知やロボット事業など製造現場の稼働率向上を得意としてきたファナックは、人工知能を搭載した「フィールドシステム」を開発した。工場のためのIoT基盤であり、稲葉は「スマホをイメージしていただくとわかりやすい」と言う。
「スマホでダウンロードしたアプリがアップデートすると、ユーザーに『アップデートしますか』と聞いてきますよね。これと同じです。フィールドシステムはプラットフォームであり、お客様であるユーザーが好きなソフトを使用します。工場を管理したり生産性を上げたりするソフトです。工場の古い機械でもフィールドシステムにつながることで最新の機能を与えられます」