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2017.09.04

「たまたま行き着いた」仕事で成功するために必要な力

東京都内の「築地銀だこ」の店舗。付加価値が低いとされる業種でも、独自の切り口さえあれば成功できる一例だ。


観察から見つかる「独自の切り口」
 
そういえば、たこ焼き屋でも株式上場をしている会社が出てきている。「築地銀だこ」をチェーン展開するホットランドという会社である。付加価値が低いとされる業種でも、独自の切り口さえあれば上場までいける一例だ。ここの社長ならば「おじさん、たこ焼き焼いて儲かるんかい?」と聞いたら、「儲かるよ。ただし工夫次第だね」と答えてくれるのではないだろうか(笑)。
 
名古屋にティアという葬儀社がある。人が亡くなるとき、手厚いお別れは絶対に必要で、社会的に意味のある仕事であるのは明らかだ。しかし、就職をするという観点では必ずしも人気業種とはいえない現実がある。

そのような中、明朗会計で、故人や遺族、その友人たちに手厚いサービスをしながら全国展開していこうとする会社には事業機会が広がっているのは明白だ。そして、ティアは着実に全国展開をしながら、日本最大の葬儀社になろうとしている。これも「切り口次第で成功できる」会社の典型ではないか。
 
また当社が投資している会社で、産業用タンクの解体をしている会社がある。一般的にモノを作り出すことに付加価値を感じがちで、壊す企業にはそれほどではないことが多い。しかし、成熟した社会では、作ること以上に壊す需要が出てくる。要するに、作るために壊さなければいけないからだ。

ベステラという会社は、「リンゴ皮むき工法」という解体技術を使ってリンゴの皮をむくように、ガスタンクを解体する専門業者である。ガスタンクの解体というのは小さいマーケットのように思えるが、日本には未使用のガスタンクが多くあり、安全に短納期で解体できる会社は多くない。ベステラはそのような中で確実な需要を得ることができる。
 
彼らからはこういうことも学ぶことができる。チャンスはどこに転がっているかわからない。興味と関心を向けることでビジネスも切り拓ける。私はそのような会社を発見して、投資することができるのだ。

だから私は「これから伸びる業界を教えてください」という質問は好きではない。確かに伸びる業界はあるが、そういうところは競争も激しく、生き残るのは大変だ。いわゆる「レッドオーシャン」なのである。 

そうではなく、成熟産業とされる業界でも新たな切り口で伸びている会社にこそ注目すべき。そんな会社は、同業他社をものみ込んで成長していく。いわば、「ヒツジの群れの中のオオカミ」のような会社が投資家としてはとても魅力的なのだ。素晴らしい会社というのは業種に恵まれている以上に、創意工夫の塊であり、そして常に顧客のことを見ている。顧客にとっては業種の新旧など関係ない。自分にとって快適で、必要な商品やサービスがほしいだけだ。
 
就職であれ、投資であれ、有望な会社を発見するにはまずは「観察」から始まる。子供の頃の私がそうであったのかもしれないが、日常生活で何に興味を持つのかがじつは重要だ。それが独自の切り口につながり、ひいては天職を見つけるきっかけになるかもしれない。

文=藤野英人

この記事は 「Forbes JAPAN No.38 2017年9月号(2017/07/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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