ビジネス

2017.09.04 08:30

コマツが覆す、建設現場の「3K、人手不足、どんぶり勘定」

建設作業員の「安全」と「生産性」こそがニーズなのだ(写真=金 東奎)


「熟成して市場に出しても、答えが正しいかわかりません。我々メーカーがお客さんのモニタリングを経て商品開発をして販売サービス体制を敷いても、お客さんの方が早く進化することだってあります。我々、BtoBのビジネスにとってブランドとは、我々がパートナーとして選ばれる度合いを高めることです。選ばれ続けるにはお客さんのなかに入っていき、『課題は何ですか』『将来どうありたいですか』と質問していき、話を深めることです。そこから出てきたのが、安全と生産性でした。商品開発も会社の体制変革も、すべてお客さんから学んだことなのです」
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クレームや批判は進化の材料であり、客と二人三脚でなければ進化はできない。スマコンとは絶対的な商品ではなく、安全と生産性という答えを導くための手段であり、活動なのだ。

コマツが「つなげること」を価値に変えた有名な話がある。1990年代、深夜に工事現場から盗み出されたショベルカーでATMが破壊され、現金が盗まれる事件が相次いだ。テレビで報じられるたびに、無残なATMと放置された建機の「KOMATSU」というロゴが映し出される。泥棒に使い捨てにされた映像に、「どうにかならんのか」と開発されたのが遠隔地から稼働状況を見える化した「コムトラックス」である。

これが思わぬヒットとなったのが中国だった。ローンを組んで建機を購入した者たちが「仕事がない」ことを理由に返済を延滞しがちだった。しかし、稼働状況がICTで可視化されると、銀行に嘘がつけない。銀行にとってコマツのICT建機が与信機能となって、人気に火が付いたのだ。
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08年に開発・商用化に成功した鉱山の無人ダンプも、つなげることで新しい価値を生んだ。ICTソリューション担当の専務・黒本和憲がつなげたのは、「市場」と「鉱山」である。黒本が言う。

「オーストラリアの奥地にある鉱山から1500キロメートル離れたパースで遠隔操作をしながら、市場と現地のオペレーションをドッキングさせました。市場で鉱石価格を見て、どれだけ出荷するかを決めて、作業工程そのものも遠隔操作するのです」


建機へは測量データから割り出した自動制御の指示が送られ、経験が浅いオペレーターの削り過ぎなどを防ぐ。

これも無人ダンプを開発した黒本が、顧客との会話から生んだものだ。黒本はこんな理想を話す。

「私たちのコムコネクトというオープンクラウドが楽市楽座のようになり、いろんな人や企業が来てつながればと思います。我々一社だけでビジネスを囲う時代ではなく、そうしないと成長はないと思うのです」

価値はメーカーが生むのではなく、使う側によって初めて価値となる。技術の融合の先にこそ、コネクテッド・インダストリーズの本質がある。

「ICTやドローンのように目に見えている技術以上に、中核にあるのはリーダーシップや組織文化だと思うんですよね」と四家は言う。熟成した完成品よりスピード、自前主義からの脱却、目的のために会社のフォーメーションを変え、そして外の人や企業を受け入れていく。こうした文化こそが強みとなる。

スマコンは安全性や生産性の向上だけでなく、もう一つ、可能性をつくっている。日本全土を立体的な3次元データ化できることだ。いわば、Googleマップを施工用に高精度な3次元データにしたようなものである。もちろん国土を立体的な3次元データにするのは世界初である。オープンデータになれば、そこから多くのビジネスも生まれるだろう。社長の大橋は「データの所有者は国や施工主さんであり、まだ利活用のルールもないから、我々が勝手にできる話ではない」と言い、こう話す。

「洪水で土地が流されるなど自然災害の復旧現場や、2度目以降の工事で、3次元データが再活用できるタイミングがくると思います。将来的には地方自治体が使うデータになればいいと思っていますが、まずは蓄積していくことです」

スマコンは顧客もイメージを掴み切れていないため、「まだお客様の理想や幻想と戦っている、生みの苦しみの状態」と、営業担当者から聞いた。しかし、それでも零細企業が多くを占める厳しく高齢化した市場から、未来の市場を開拓した事実を前に、あまりにも有名なこの言葉を思い出さずにはいられない。

「未来を予測する最善の方法は、自らそれを創りだすことである」

文=藤吉雅春

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