「我々のクライアントは、設立2年のスタートアップなどとビジネスをしたことがない大企業ばかりだ。我々はそうした企業をターゲットにしている」
Amenity Analyticsが手掛ける自然言語処理は、膨大な文書データを解析し、意味のある知見を導き出す技術だ。IBMのワトソンをはじめ、グーグルなどが提供するオープンソース・フレームワークが主流だが、Storchは自社の技術の方が優れていると自負する。
現在、米国のトップ100社のうち4社を含む15社がAmenity Analyticsのサービスを利用している。業種はファイナンスや保険、メディアなど多岐に渡り、IBMから奪った企業も含まれる。同社はシリーズAラウンドでイスラエルのVC、State Of Mind Venturesから760万ドル(約8.4億円)を調達し、さらなる顧客獲得に取り組んでいる。
創業メンバーの一人は、ヘブライ大学データサイエンス学部の教授で、テキストマイニングという言葉の生みの親であるRonen Feldmanだ。Feldmanは、自然言語処理分野で最初の企業の一つである「ClearForest」を創業し、2007年にロイターに売却している。
一方、Storchはファイナンス業界出身で、ある投資案件のデューデリジェンスを通じてFeldmanと知り合った。二人は機械学習を用いた自然言語処理に大きな事業機会を見出し、創業した。
イスラエル軍も認めた解析能力
Amenity Analyticsのツールは一見簡素に見えるが、デモでは膨大な財務データをわずか数秒で解析してみせた。最大の特徴は、プログラミングの知識がなくても精度の高い自然言語処理モデルを作成できることだ。同社はこの強みを武器に、大手メディア企業との契約を勝ち取った。この企業は、これまでIBMの顧客だったが、ワトソンのパフォーマンスに不満で切り替えを決めたという。
同社はAmenity Analyticsのツールを用いて3万ものテキストソースから顧客企業に関するインサイトを導出し、営業活動に利用。「ノイズを排除するだけでなく、分かりやすいインサイトを提供してくれる」と担当者は高く評価する。
Amenity Analyticsに出資したState Of Mind Venturesのメンバーには、イスラエル軍の退役大将で、軍の諜報機関「8200部隊」の責任者を務めたPinhas Buchrisや、セコイア・キャピタルの元パートナー、Yuhal Baharavなどが含まれる。
「Amenity AnalyticsはIBMよりもパフォーマンスが優れ、コストはIBMの5分の1から10分の1だ。大手企業にはないきめ細かいサービスによって競争を優位に進めることができる」とBaharavは話す。
イスラエルと米国に拠点を持つAmenity Analyticsにとって、目下の課題は成長スピードを加速させることだ。同社は大きなポテンシャルを秘めているが、現状の市場シェアはIBMなど大手の足元にも及ばない。成長著しいオープンソースのフレームワークも手ごわいライバルだ。
今後、Amenity Analyticsはワトソンと競いながら、他のスタートアップとIBMの顧客を奪い合うことになる。「成長をスピードアップさせられるかは我々次第だ」とStorchは話す。