AIによる「未来予測」 製造業から農業、医療まで

Panchenko Vladimir / shutterstock

「人工知能が持つ可能性のひとつに、未来予測があります。膨大なデータを分析することで、これから先に起こりうる出来事の兆候を発見し、それを人間に知らせることができるのです」

このコメントは以前、日本のとあるAIスタートアップを取材した際に聞かせてもらったものだ。取材では、人工知能の本質や最大のメリットについて話が及んだのだが、そのひとつとして担当者は「未来予測」というキーワードを選んだ。

話を聞いた当初、その意味があまり実感できなかったのだが、その後、AI関連のニュースを見ていくうちに、同担当者の思い描いていたであろうビジョンが、おぼろげながら理解できるようになってきた。

現在、人工知能はさまざまな産業において、「未来」を予測するために利用され始めている。例えば、製造業における「故障予知」などは最たる例だろう。同様に、漁業では「漁場予測」、畜産業では「疫病予測」という用途が想定されており、各企業・学術団体が具体的な開発プロジェクトを進めている。

それらはいずれも、IoT端末(ハードウェア)から収集したデータをAIに学習させ、「より良い未来」を予測しようという試みだ。ドローンを使った「データ農業」の実現を目指すベンチャー企業関係者は、次のように話している。

「これまで、農業では経験豊かな篤農家と呼ばれる人たちが、農産物の生産性を高めることに寄与してきました。その役割が、機械に置き換わると考えてもらえれば分かりやすいかもしれません。ドローンなどのハードウェアが有効なデータを集めて、AIが学習していく。最終的に、篤農家の役割が自動化するのです」

人工知能による未来予測を利用しようという試みのなかで、一際注目を集めている分野がある。医療・ヘルスケア分野だ。同分野では、人間の健康の未来を予測しようという動きがにわかに盛んになり始めている。

今年8月には、カナダ・マギル大学の研究チームが「認知症を予測する人工知能」を開発したとして話題となった。同研究チームが開発したAIを使えば、症状が現れる2年前に認知症の発症を予測することができる。さらに研究チームによれば、その精度は84%に達するという。同AIは、軽度認知障害患者のPET(陽電子放射断層撮影)データを学習して診断精度を高めており、研究成果は「Neurobiology of Aging」など専門誌に発表されている。

同様に、人体から有用なデータを抽出し、それをAIで解析して「健康の未来」を予測しようという動きは今後も加速していくことは間違いない。日本では、東京医科大学が山口大学と共同で「肝がんの再発可能性を予測するAI」を開発するなど、似たようなアプローチがメディアを通じて紹介されはじめている。

ちなみに、市場調査会社トラクティカのレポートによると、人間の体調をモニタリングするウェアラブル端末、すなわちハードウェアは、2016年の段階で世界的に1億1800万台が出荷された。2022年には、2倍以上の4.4億台に増える見通しだ。それらハードウェアの精度が上がり良質なデータを集められるようになれば、いずれ大掛かりな機器がなくとも、健康の未来を手軽に予測できる日がやって来るかもしれない。

文=河鐘基

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