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これはクルマ以外についてもいえる。TRIは、家の中でも移動の自由を提供するためのロボットも開発しているが、その“出発点”もやはり機械や市場ではなく、人間だとプラットは話す。

「高齢化社会について考えるとき、人は最もニーズがある人口層はどこかと考えがちです。しかし、真に問うべきは『老化で体が思うように動かなくなった人は何を必要としているのか?』ではないでしょうか」

足腰が弱まった高齢者にとってはベッドから起き上がる、風呂に入るなど、日常の動作も一苦労である。視力の低下や物忘れも付いて回る。介護が必要となれば、遠慮や自尊心の問題も出てくる。その結果、孤独を深めていく高齢者も少なくない。だからこそ、身体的なニーズだけではなく、社会的・心理的ニーズについても想像力を働かせていく必要があるのだ。

「シンプルながら、力強いアイデアから生まれたロボットが愛されています。『(アザラシ型ロボット)パロ』もその一つです。ただ私たちは、こうした直接的に人と絆を結ぶロボット以外のものもあっていいと考えています。自由を失った高齢者が、意思と尊厳を取り戻す支援ができる機械です」

そして、サービスとしての「移動(モビリティ)」と「自律性(オートノミー)」は相乗関係にある。自動車が「移動」の可能性を広げたのと同じように、ロボットも人の「自律性」を高めることができる。機械ならば、人が高齢や病により失う心理的、肉体的、社会的な力を取り戻す手助けをしてくれるかもしれない。またプラットが言うように、「AIならばロボティクスの領域でできることがたくさんある」のだ。

「肉体」と「頭脳」の次とは?

それでは、AIは人間と機械の関係をどのように変えるのだろうか? 

「元教授ですからね。こうした質問は大好きです」とプラットは目を輝かせながら、手の指先を重ねてこう答えた。

「狩猟民族だった頃、人類の本質的な価値は『筋力』でした。それを駆使して経済活動をしていました。やがて化石燃料が発見され、その燃焼により生まれる力は人間の力を凌駕することがわかりました。それを機械で制御できるようになったとき、私たちの本質的な価値は『筋力』から『知力』へ変わったのです。その『知力』を拡張してくれるのが『AI』ではないでしょうか」

ただ、その通りだとすれば大きな懸念が残る。機械が肉体労働にとって代わり、AIが知的労働を担うようになるならば、人間にはいったい何が残されるのか──。

もっとも、プラットは未来を憂いていない。実際、私たちは日常的にスポーツを嗜み、五輪のようなスポーツイベントにも夢中になる。同じように、AIが知的労働を肩代わりし、私たちが頭を使うことを選択できるようになるかもしれない。好奇心に従って、クリエイティビティ(創造性)を追求する未来もありうるのだ。

「確かに、機械は人間の役に立ちます。それでも、私たちは自分の頭を使い、体を動かすことに喜びや満足感を得ることができます」

プラットはそう言うと笑顔を見せた。

「世の中は変わるでしょう。でも、私は楽観的に考えていますよ」


ギル・プラット◎トヨタ・リサーチ・インスティテュート(TRI)のCEO(最高経営責任者)。マサチューセッツ工科(MIT)やオーリン工科大の教授を歴任。米国防総省の国防高等研究計画局(DARPA)のプログラム・マネジャーを経て、2016年1月より現職。MITで電気工学とコンピュータ科学の博士号を取得している。子供の頃から教師が好きで、教育者の道に。現在のCEO職も「教授と似ている面がある」という。

文=Forbes JAPAN編集部

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