約1300kmにおよぶ中朝国境は、長白山(朝鮮名:白頭山)を源流とする図們江(東側)と鴨緑江(西側)によって隔てられているが、こうした酔狂な国境遊覧ボートの乗り場は6ヵ所ある。そのうち5ヵ所は鴨緑江側にあり、図們江側は図們にあるのみだ。
なぜなら、図們江側には脱北者の問題があるからだ。同族の住む朝鮮族自治州に接する国境は中朝両国にとって敏感なエリアであるため、のどかに遊覧ボートを浮かべられるのは、ここしかないというわけだ。実際に、上流に向かうと、川幅はもっと狭くなり、冬季は氷結するため、2000年代初めくらいまでは、両国民がこっそり往来するということもよくあった。親族が対岸に分かれて暮らしている人たちも多かったからだ。
高台から眺める中朝国境。左側が中国(図們)で右側が北朝鮮(南陽)(撮影/佐藤憲一)
こうした関係も2006年に北朝鮮が核実験を行って以降、ずいぶん変わってしまった。両岸に住む同族たちの思いも、個人差はあるものの、以前のようではなさそうだ。
かつて図們は「西の丹東、東の図們」と並び称される中朝国境のメインゲートだった。ところが、2010年に吉林省都の長春から高速道路、15年には高速鉄道が中国、ロシア、北朝鮮の3ヵ国が接する琿春市までつながり、新しいイミグレーションである圏河口岸が整備されたことで、中朝間の物流ルートとしての位置付けは琿春に移ってしまった。その結果、図們はさびれていくばかりというのが近年の状況だった。
ところが、今夏現地の友人からこの国境で新しい橋の建設が始まったという報告が届いた。図們大橋は車が1台走れるほどの幅しかないが、現在この橋と鉄道橋の間に建設中の新橋は車が2台通れる幅になるという。開通は再来年の予定だそうだ。
現地の友人が送ってくれた図們新大橋工事中の写真。左側に見えるのが旧図們大橋
8月中旬、さすがの中国も経済制裁を強化したことで、北朝鮮の羅先特別市の水産物を中国側に入れようとした中国の運送業者がストップをかけられ、琿春のイミグレーションを通して持ち込むことができなくなったことから現地で混乱が起きていることを中韓のメディアが報じている。
そんなさなかに、表舞台から忘れ去られようとしていた図們の国境橋が建設されていたという話は興味深い。国家間の表向きの関係とは異なる地域レベルの関係があることを国境は教えてくれる。
おかげで残念なことに、昨夏訪れたときには乗ることができた遊覧ボートは、橋の建設のため営業中止となってしまった。今年、この地域は渇水で川の水量が減ったせいもあるが、ボートが工事中の橋をくぐることができなくなったからだ。