しかし、それは、ASEANが国際社会において一定の存在感を持つキープレイヤーに成長したことの裏返しでもある。
ASEANは、1967年に発足して以来、ゆっくりとした足取りではあるが、着実にその求心力を高めてきた。ASEAN各国はいずれも小国であるが、一つにまとまれば人口6億人、名目GDP2.5兆ドルの巨大な経済圏となる。いずれの国も単独で軍事面で中国に対抗することはできないが、一つにまとまってメッセージを発出すれば、中国もこれを無視することはできない。米国も、アジア戦略を展開する上でのパートナーとしての価値を見出している。
「ASEAN Way」の光と影
東南アジアは、経済規模、経済発展のレベルから、政治体制、宗教や言語に至るまで千差万別の地域であり、ASEANが発足した当初、その協力の前途には懐疑の目が向けられた。数年で瓦解するだろうと予想した人も少なくなかったという。
しかし、むしろその多様性を強みにしながら、力強く発展を続け、世界経済の主要なプレイヤーに成長した。さらに、保護主義的な風潮が高まる世界において、グローバル化を牽引する役割を担うに至っている。
ASEANが50年にわたり発展を続けることができた大きな理由は、コンセンサスに基づく決定と内政不干渉主義(=ASEAN Way)を貫いてきたことである。ASEANの緩やかな連帯は、利害関係が一致する限りで結束し、域外国とも協働しながら、統一したメッセージを発出する場を提供することを可能にした。
ASEANの首脳と外相は、毎年議長国で集まることを定例化しているが、このとき、中国を念頭に置いて、南シナ海領有権問題について平和的解決を求める声明を発出することが恒例となっている。この機会にASEANは日中韓の他、米国、カナダ、インド、豪州、ニュージーランド、ロシア、EUという域外国を招待し、ASEAN+3、東アジアサミット、ASEAN地域フォーラム(ARF)といった多国間の対話の枠組みを提供している。ARFのメンバーには北朝鮮も含まれ、今回の関連会合でも北朝鮮問題が主題となった。
このようにASEANは、アジア太平洋地域の共通課題を関係国が話し合うプラットフォームを提供することを通じ、地域の平和と安定に貢献している。ASEAN自身も、その役割を自認し、近年、アジア太平洋地域の多国間協力枠組みを推進すべく、自らの「中心性」を高める、と強調するようになった。
また、2015年末にASEAN共同体を発足させるなど、域内の経済統合を大きく進展させたが、同時に「開かれた地域協力」を掲げ、域外の国々とも貿易と投資の自由化を進めた。日本、中国、インド、豪州・ニュージーランドそれぞれと自由貿易協定を締結し、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)に向けた交渉を進めている。
米国が環太平洋パートナーシップ(TPP)から離脱し、欧州では英国の離脱はじめEUに対する逆風が強まるなど、世界的に保護主義の高まりが懸念される中で、ASEANは域内と域外の両面において積極的にグローバル化を牽引している。