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2017.08.29

トランプ政権と中国と対峙するASEAN、生誕50周年

フィリピン・マニラで開催されたASEAN外相会議(Photo by Getty Images)


しかし、その一方で、コンセンサスと内政不干渉に基づく緩やかな連帯は、実効的で具体的な解決策を打ち出せないという限界を意味する。環境保護、ロヒンギャなどの人権問題、テロ対策など国境を越えた問題に対しては実効的な措置を打ち出しているとはいえない。

南シナ海問題では、領有権の問題を抱えず、中国と緊密な関係を築いているカンボジア、ラオスと中国への対抗を喫緊の課題とするベトナム、フィリピンらとの間で不一致が生じている。本来「盟主」として主導権を発揮することが期待されるインドネシアに積極性がみられないという指摘もある。

進化を続けるASEAN

一方、最近の動きを見れば、「ASEAN Way」にも少しずつ変化が起こりつつあるように見える。

経済統合は、モノの貿易の自由化、それも関税の撤廃が先行しており、非関税障壁の撤廃や、サービスなど他の分野での自由化はまだ途上にあるが、それでも既得権層の抵抗を抑えて関税撤廃を達成したことは大きな成果といえる。

ベトナムは、かつては70%にも上った自動車関税を2018年までにゼロにすることを約束した。タイとインドネシアという自動車大国との激しい競争にさらされることを覚悟の上での決断である。ASEANのモメンタムがあってこそできた自由化だろう。

政治面でも、ミャンマーのロヒンギャの人権問題に対しては、マレーシアが中心になって、ASEANの積極的な関与が検討されている。アウンサン・スーチー外相は、今回の外相会議に欠席したが、その背景にはロヒンギャ問題に対するASEANの圧力があったともいわれる。

緩やかゆえに実効性のある措置をとれないと言われたASEANも、50年の歴史を歩んだ末、ゆっくりではあるが、着実にその力を発揮するようになっている。「ASEAN Way」とともに「中心性」が新たなキーワードとして強調されるのもその表れであろう。

ASEANは、各国の自主性を重んじ、経済面での協力を先行させることで、EUとは異なる発展の道を拓き、今日の発展を築いてきた。創設50年を迎えた今、経済の発展と統合のみならず、政治・安全保障面における一層の貢献が求められるようになっているが、それは、この地域協力の枠組みが成功し、さらに高い期待を寄せられることになったことを示している。

東南アジアは、日本企業にとっては、生産拠点ないし消費市場として、また日本政府にとっては、グローバル化を推進し、地域の安定を導く上で信頼のおけるパートナーとして、欠かせない地域である。いずれの国においても親日感情は極めて高く、日本の期待には必ず応えてくれるという安心感がある。米国が内向き志向を強め、アジアにおけるプレゼンスの低下が懸念される中、日本には、より一層ASEANに積極的に関与していくことが望まれる。

文=石井 順也

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