ビジネス

2017.08.29

報道されない「ホームレスサッカー」という大実験

野武士ジャパンの試合の様子(写真=ビッグイシュー基金、野武士ジャパンより)


チームを支えるビジネス界のプロボノ

本稿の読者はビジネスパーソンが多いと思うが、HWCに行って驚くのは、各国チームにビジネスパーソンがプロボノとして活躍していることだ。さらに当人の所属組織が、そのプロボノ活動を業務として認め、通常の給与を支払っている。

私が面識があるスタッフでも、エジプト代表監督はマッキンゼーのアフリカ大陸担当のファンドマネージャー、コーチ(当時)は元パリ・サンジェルマンFCのプロサッカー選手、ガーナ代表監督は日本でいう厚労省の局長クラスの要職についていた。また、韓国チームはオランダ人の監督がつき、チームを強化している。

野武士ジャパンが練習試合やチャリティ大会で対戦する相手は、ブルームバーグ、モルガン・スタンレー、シティグループ、ドイツ銀行グループ、BNPパリバ、UBSなど。日系企業にはあまりない取り組みだと思うが、私たちとの練習やプロボノ的なサポート自体が、当人や組織の業務として認められており、野武士ジャパンに不足しているリソース──ボランティアのスタッフ、寄付金、ネットワークの仲介など──に対して、直接・間接の支援をしてくれる。

私たち野武士ジャパンも努力していないわけではなく、行政や企業、スポーツ団体等に何度もアプローチをかけているが、社会の変化には程遠い状況だ。声をあげて日本社会や企業を批判するつもりはないが、事実としてこんなにも差がついている現状に気が付いてほしい。上述の様々な事例を踏まえれば、2011年大会で、なぜ日本チームが全敗したかが分かるだろう。

それは、単に我々チームの問題だけではなく、日本社会がマイノリティーを排除している結果なのだ。それが「世界最下位」という結果として突き付けられた日本社会の課題だ。

いつかHWC日本大会を!

私たちの夢、それはホームレス・ワールドカップを日本で開催することだ。

HWCはいまだアジアでの開催はない。アジアで初めてサッカーW杯を日本で開催した実績を踏まえれば、日韓でHWCを開催することも一案だ。現在は韓国チームと韓国社会に圧倒的な差をつけられているが……。ただ、今年、日本サッカー協会が我々をグラスルーツ推進・賛同パートナーに認定してくれたことは、大きな礎になるに違いない。

オスロで開催される今年のHWCも全試合WEBで生中継される。ぜひ各国チームの戦い方、選手一人ひとりの生き方のみならず、それらを支える政府、企業、プロボノ達の活躍にも注目してほしい。そして、彼らと同様に、人生をあきらめずに、一歩一歩歩んでいる野武士ジャパンというチームがあることを知ってほしい。

HWCには、オリンピック、パラリンピックにも劣らないスポーツの可能性や社会変革のヒントがあふれているはずだ。

文=蛭間芳樹

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