ビジネス

2017.08.29

報道されない「ホームレスサッカー」という大実験

野武士ジャパンの試合の様子(写真=ビッグイシュー基金、野武士ジャパンより)


日本のホームレスは約6200人。近年は減少傾向にあると厚生労働省は発表しているが、そのホームレスの定義は「都市公園、河川、道路、駅舎その他の施設を故なく起居の場所とし、日常生活を営んでいる者」とされている。ネットカフェを泊まり歩く人や簡易宿泊施設を利用している人といった「世界ではホームレスの定義に当てはまる人」を計算に入れると、日本のホームレスの数は大きく変わることは容易に想像できる。

また、日本にはニートやひきこもり、フリーターなどが300万人ほどおり、彼らは若くしてホームレスになるリスクを抱えている。現に若年層の貧困や労働に関する問題は注目されつつあり、行政もNPOも路上生活者や困難を抱えた若者の支援に取り組み始めている。

日本と海外:チームと社会環境の違い

そもそも、社会保障制度や労働環境が日本と欧米とではあまりにも異なるため、安易に日本批判をしたくはない。しかし、日本と比較的近い社会環境にあるアジア各国の中でも、諸外国のチームとは置かれている状況に大きな差が出てきてしまった事実を踏まえると、日本社会の進展のなさを指摘せざるを得ない。

それを痛感したのが、2016年に香港で開催されたホームレス・アジア大会だ。2011年にパリで日韓戦を戦った韓国に、ホームレス問題に対する社会全体としての取り組みで完全に差をつけられていることに気づかされた。

韓国では、ソウル市がホームレス・サッカーチームを支援するようになったほか、CSRや雇用、人権の問題に取り組んだ企業には補助金や税制面での優遇処置が受けられるという条例ができた。行政と企業が連携してホームレスチームを応援していこうということになっている。そして、今大会にはついに「現代自動車」がスポンサーについた。もちろんユニフォームはサッカーフル代表のユニフォームと同じだ。

日本チームと言えば、2011年のHWC出場時と現状はあまりかわらず、細々と練習をしている。ホームグラウンドもなく、体育館や公園で活動しているので、近所のおじさんや子供たちと一緒に練習している。特段、行政との連携もない。

本来であれば日の丸とカラスのエンブレムがついた代表のユニフォームを着たいが、部活のプラクティスシャツを着て試合に出場している。もちろん、ボランティアとして個人ベースで参加してくれる方、一部ではあるが組織的応援をしてくれる企業もあるが、我が社がスポンサーですという企業はない。それが、日本代表チームの実績だ。


これが野武士ジャパンのユニフォームだ(写真=ビッグイシュー基金、野武士ジャパンより)

報道すらされない世界のホームレスサッカー

2017年6月1日のチャンピオンズリーグと言えば、サッカーファンなら誰しも注目しただろう。ユヴェントス対レアル・マドリード。結果は1-4でレアルが勝利、うち2得点をクリスティアーノ・ロナウドがあげた。

ただ、私が驚いたことは、この決勝戦の前哨戦としてホームレスサッカーチームが招待され、練習試合をし、またその様子をBBCが放送したことだ。日本でいえば、天皇杯やJリーグ決勝、アジア大会決勝で、我ら野武士ジャパンが練習試合を行い、それをNHKが放送するようなイメージだろうか。

しかし、私が知る限り、日本のメディアはこの事実を一切報じていない。スポーツ番組、サッカー解説者、Jクラブもサッカー協会も。Jリーグ100年構想、日本代表の強化、日本人選手の海外移籍も良いが、サッカーの本質的な可能性を見出す取り組みは、日本にはない。HWCのダイナミズムをみていると、これが世界のサッカー界の最先端、グラスルーツやソーシャルインパクトの原点なのに、と悔しく思う。
次ページ > 日本チーム全敗の理由

文=蛭間芳樹

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事