スイス時計の聖地、ジュウ渓谷で知るオーデマ ピゲの原点

1882年から製造されたすべての時計のデータが、手書きの書類で保存されている。保存状態もよく、品番さえわかれば、明確にどの時代の、どのモデルかがわかるようになっている。送られてきた歴史的逸品は、まずここで照合され、ヴィンテージピースの修復工房へと送られるのだ。

オーデマ ピゲは創業の土地を非常に大切にし、ロゴに「Le Brassus(ル ブラッシュ)」の文字を組み込み、ブティックにもそのイメージが反映されている。そんなオーデマ ピゲの原点を訪ね、その時計作りの神髄に触れた。

スイス時計の聖地、ジュウ渓谷
 
オーデマ ピゲは、ジュール=ルイ・オーデマとエドワール=オーギュスト・ピゲという2人の時計職人によって、1875年に創業した歴史ある時計ブランドだ。そして、142年の歴史のなかで数多くの名作時計を生み出し、現代においても最高峰の時計ブランドのひとつに数えられている。さらには、大資本傘下への統合が進む今日の時計業界にあって、インディペンデントを保ち、創業者一族が今も経営に参加している稀有なブランドでもある。
 
そんなオーデマ ピゲの故郷であり、現在も本拠であるスイス・ル ブラッシュを訪ねた。
 
この地は、フランスとの国境に近い、ジュウ渓谷と呼ばれる場所だ。スイス時計を発展させ、現在も多くの時計ブランドが拠点を置く、時計の聖地とも呼ばれる地域でもある。オーデマピゲは2012年にロゴに「Le Brassus」の文字を組み込むなど、ジュウ渓谷の時計会社であることを強調しており、思い入れも強い。


時計製造が盛んなジュウ渓谷は、スイス北部にある。海抜1000mの場所で、都市であるジュネーブへと続く道は3本しかない。

オーデマ ピゲの本社および工房は、ル ブラッシュのメインストリートに沿って建てられている。そして、その発展に沿うように増築され、現在では創業当時の5倍以上にもなっているという。
 
もっとも古いものが1868年に建てられたもので、最新の建物が2008年に完成している。しかも、その新しい建物はスイス初のエコ・ビル「ミネルジー・エコ」に認定されるという、最新鋭のもの。環境に配慮された現代における理想的な建築物となっている。歴史ある19世紀の建物と21世紀の最先端建築が混在する。まるでオーデマ ピゲの時計を体現しているかのようである。

継承されている職人による手作業
 
工房では、検査用のものなど最新の機械も導入されているが、基本は創業当初からの手法、つまり手作業による時計製作を貫いている。充分に研鑽を積んだ職人によって組み上げられるからこそ、時計は高品質を保ち続けることができるのだ。

その象徴的な部署が、ビンテージピースの修復工房である。
次ページ > どんな時計も直してしまう修復工房

文=福留亮司

この記事は 「Forbes JAPAN No.37 2017年8月号(2017/06/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事