グランド・ラウンズが提供するのは、「患者をベストな医師に引き合わせる」サービスだ。ベースとなるのは医師のビッグデータ。全米の医師数の96%に相当する約70万人のデータベースに、保険請求データや経歴情報を組み合わせ、実績に基づく医師の評価を行う。これを基に、最初の診察で正確な診断を下せる医師を見つけ、また、セカンドオピニオンを提供できる専門医を紹介する。
費用は個人で利用する場合、医師の紹介が600ドル(約6万5000円)、セカンドオピニオンを受けるには7500ドル(約82万円)がかかる。企業が導入する場合は、従業員ひとりにつきベース料金が設定されている。
商機は企業顧客にあり
個人利用も増えてはいるが、グランド・ラウンズが商機を見込むのは企業顧客だ。例えばコストコのように、グランド・ラウンズの顧客の多くは自社保険制度を設けている。コストコの保険の給付は保険会社のエトナが行っているが、コストコも一定の財務リスクにさらされている。よい医師に巡り合うことで誤診や不必要な治療が減れば、治療費は下がり、患者はもちろん企業の負担も減る。
株式非公開企業であるグランド・ラウンズは収益額を明かさないが、顧客にはコストコのほか、ウォルマート、通信大手コムキャストなど、米国を代表する大手企業が顔を揃える。収益はこの3年間、毎年100%増加しているとCEOのオーウェン・トリップ(37)は言う。
グランド・ラウンズを利用する従業員は全体から見れば一部ではあるが、その総計はすでに300万人を超えている。アルバイトを含め21万8000人を抱えるコストコでは今年、従業員の2%がグランド・ラウンズを利用し、そのうち60%がセカンドオピニオンを受け、治療内容を変更した。
もちろん、最初の医師が正しい診断を下し、正しい治療を処方していることもある。そういった場合、グランド・ラウンズのセカンドオピニオンは保険会社に保険金を支払ってもらうための強力なツールとなる。例を挙げよう。
パーソナルトレーナーのレズリー・ナバは、夫がパートタイムで勤めているコストコを通じて、グランド・ラウンズを利用した。レズリーと息子は、どちらも神経線維腫症Ⅱ型と呼ばれる遺伝性疾患にかかっている。非がん性の腫瘍が神経系全体にできてしまう病気だ。
あるとき、息子の聴覚神経に腫瘍ができ、このままでは聴覚が失われると診断された。聴覚を温存するためには、抗がん剤のアバスチンによる定期的な治療が必要だった。しかし、保険会社エトナは費用の支払いを拒否した。
泣き崩れるレズリーに、診療所の看護師が告げた。「あなたが加入しているコストコの保険には、グランド・ラウンズのサービスが含まれています。利用してみては」
問い合わせてみたところ、グランド・ラウンズのスタッフから受けた的確で親身な対応に驚き、届いた報告書にアバスチンが実際に最善の治療法だと書かれているのを見て安堵したという。この報告書が後押しとなり、エトナは費用の支払いに同意した。
「グランド・ラウンズは間違いなく、私に医療制度への信頼を取り戻させてくれました」とレズリーは語る。