日本の高等教育機関が「硬直化」する理由

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例えば筆者が現在フェローとして在籍しているイエール大学では、学長は理事会によって選出されており、大学コミュニティからのインプットはあくまでも参考情報である、と明確に謳われている。

ちょうど先日、今年5年目に入る現学長のピーター・サロヴェイ博士と直接話す機会に恵まれたが、学長は、同大学の伝統である芸術分野を大切にしながらも、文系ではより実効性のある政策提言に結びつくような研究を重視し、理系では(既に同大学の強みである)医療分野に加えてコンピューターエンジニアリングにも力を入れていく、との中長期計画を描き、自らが先頭に立って実現に向けた資金調達も進めていく、と語ってくれた。

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イエール大学学長 ピーター・サロヴェイ博士(c)http://president.yale.edu/

日本でも、学部の新設や統廃合を進める大学は増えているし、社会の変化や学生のニーズの多様化に応えようとする動きが始まっていることは確かだ。しかし世界の変化はこれまで以上に加速している。よりスピード感をもって変革を進めることが期待される中、上述のようなガバナンスの仕組みも含めて今一度見直すことが必要になっているのではないかと思う。

改革しない大学でも、無償化の対象?

仮に、こうしたガバナンス改革が実行されたとする。その上でもし高等教育を一律無償化するのであれば、変革を遂げる大学とそうでない大学をいかに見分けるか、また、そこで受けた大学教育が、無償化の理由として掲げられているような教育格差の是正や経済の発展にきちんと結びついているかの検証が、カギとなるのではなかろうか。

例えば、初回記事に書いたような、もし卒業後に収入に応じて授業料を返納してもらうモデルを採用する場合、その返納率(必ずしも「額」である必要はない)を大学や学部ごとに評価するといった方法も効果的かもしれない。
 
何にせよ、高等教育の無償化と言っても、決して「大学がタダになる」のではなく、そこには歴然として教育コストがかかっているわけで、それを国や自治体が負担する場合には、他にも使途があり得る大切な税金を財源としているという感覚を常に大切に、この国民的議論に臨んでいくべきである。

ISAK小林りん氏と考える 日本と世界の「教育のこれから」
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文=小林りん

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