1980年頃、名門ロータス社がセリカXXの開発に協力、伝説のコーリン・チャップマン社長がCMに登場して、すわ提携と思ったが、チャップマンの死去でそれ以上の進展なし(ロータス社にエンジンは供給してきたが)。
続いて1990年代後半、ロールスロイス売却の話が出た際には、トヨタがロールスを買収したら、景気低迷で元気がなくなった日本人に勇気を与えるのに……と期待したが、結局ドイツ帝国のVWとBMWがブランドを分け合った。
さらにアストンマーチン。「これは魅力的! 買い得では?」と思ったもんだが、8億ドルの安値で元WRCコドライバーのデイヴィッド・リチャーズの手に。
これらの会社の買収をトヨタが本当に検討したかはわからないが、トヨタほどの会社、買収や提携の話はいっぱいあったことだろう。事実、過去VWやGMとの提携もあったが、適当なところで手を切っている。今や超有名企業、テスラとも2010年に55億円を出資して提携、工場も破格の値段で譲ったが、昨年12月に全株式を売却して関係を解消している。
北米の欠陥車問題でトヨタバッシングが厳しい時代でのテスラ社への援助。トヨタのアメリカでのイメージ回復に役立った提携だったが、当時トヨタの役員は「技術的にテスラから得るものはないが…」と語っていたことを覚えている。意見の対立か、トヨタが新開発した画期的な全個体電池への自信によるものか?
まったく知られていない話だが、トヨタが海外の自動車メーカーの買収に最も近づいたのは1990年代初頭かもしれない。経営難のマセラティ社が熱心にトヨタに買収要請したというのだ。検討に検討を重ねたが、結局断ったという。
マセラティ車は非常に高価だが、日本でも毎月200台前後売れるプレステージカーの一番人気車。トヨタが買収を断った後、フィアットグループの傘下に入った(Evannovostro / Shutterstock.com)。
その理由の大きな要因はストが多発した時代、イタリア人労働者を管理する自信がなかったということだったと、交渉に当たった首脳に聞いた。世界を代表するプレステージカー、マセラティ社をM&Aしていれば、レクサスブランドもまた違う形になったであろう。今から思うと、大声で「惜しかった!」と言いたい。
ことほど左様にトヨタは慎重で控えめだ。三河の会社の宿命か? とはいえ豊田章男社長は年初の会見で「今後、M&Aを積極的に行っていく」と表明。眠れる獅子が目覚め始めたようだ。
そのトヨタ……年末から来春に前述したロータス社との協業でヤリス(ヴィッツの欧州名、3ドア車)のハイポテンシャルカーを発売する。エンジンやサスペンションがロータスチューンだ。ただの技術協力か、それともそれ以上のものになるのか──。今度こそ注目だ。
元ベストカー編集長・勝股優の連載「だからクルマは面白い」
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