AIでストリーミングの画質を最適化 MITで研究進む

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グーグルは今年2月、ユーチューブの視聴時間が1日10億時間を突破したことを公表した。ユーチューブは回線速度が遅い場合などに自動的に画質を落としてスムーズな再生を維持しているが、こうした低画質での視聴時間は公表されていない。

また、再バッファリングにもかなりの時間が費やされていると思われる。このたび、MITのコンピュータ科学・人工知能研究所(CSAIL:Computer Science and Artificial Intelligence Laboratory)は、より快適な視聴体験を実現するために機械学習を用いた画期的なソリューションを開発した。

ユーチューブのようなストリーミングサービスは、動画ファイルを全てダウンロードせずに、ひとまとまりのデータをバッファメモリに蓄積してから再生を開始している。新しいデータファイルをダウンロードする前にバッファメモリが空になってしまうと、再生が中断してバッファリングアイコンが表示される。データファイルのダウンロード時間は、サーバ負荷やネットワークトラフィック、回線速度などに依存する。回線速度が遅い場合には動画の解像度を落とすことで動画の中断を防いでいる。

これまで、ユーチューブやネットフリックスは、アダプティブ・ビットレート(ABR)アルゴリズムを用いて画質を調整してきた。しかし、動画の品質はバッファメモリに蓄積されたデータ量と回線速度の両方に依存するのに対し、ABRはどちらか一方にしか対応できないことが課題だった。

これに対し、CSAILが開発した人工ニューラルネットワーク「Pensieve」は、ネットワーク条件やバッファメモリの状況、これまでに学習したビットレートなどに基づいて最適なビットレートを選択する。また、動画の品質を測定し、アルゴリズムを調整してさらにパフォーマンスを向上することができるという。このように、Pensieveは回線速度とバッファ状況に応じて最高の視聴体験を実現することができるのだ。

最適なビットレートをAIが決める

CSAILによると、様々な条件下でPensieveをトレーニングした結果、従来に比べてバッファリングによる中断が10%~30%減少したという。視聴者による評価では、画質が10%~25%向上し、公衆Wi-Fiや歩行中にLTEを使った実験でも同様の改善が見られたという。

Pensieveの強みは、現状のネットワークやバッファ状況にすぐ対応できる適応力と、コンテンツプロバイダーや視聴者が画質重視か再バッファリングの減少重視かを選択できる柔軟性にある。研究チームによると、Pensieveはもっと飛躍的に動画ストリーミングを改善する可能性を秘めているという。現状のモデルは、CSAILの設備を使って小規模なデータセットでしかトレーニングできていないが、サーバファームでネットフリックスやユーチューブ規模のデータセットを用いてトレーニングをすれば、パフォーマンスが格段に向上する可能性がある。

CSAILは、8月23日にUCLAで開催されるSIGCOMMでPensieveに関する研究結果を発表する予定だ。研究論文は、SIGCOMMのウェブサイトに掲載されている。

編集=上田裕資

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