中国のヘルスケア産業、個人情報への「意識の低さ」が追い風に

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新設の37社の中には、昨年テンセントなどから約170億円の資金調達に成功し、企業評価額が10億ドル(約1100億円)を超え「アジア最速のユニコーン企業」として注目されている「iCarbonX」も含まれる。

2015年10月に設立された同社は、中国の数百万人の生体情報を元にゲノム(全遺伝情報)解析などを行い、健康状態に合わせたヘルスケアサービス、またデータに基づく予防医学の提供を目指している。CEOのDr. Jun Wangは、現地メディアの取材に答え、次のように自社発展の思いを語っている。

「我々は2017年1月にデジタルライフ連盟を立ち上げ、関連企業7社へ合計約400万ドルを投資しています。この連盟はバイオ、ヘルスケア、塩基配列、そしてAIを融合させる全く新しいエコシステムです。目指しているのはAIによるヘルスケアデータ解析を通じて健康、疾患、老化に関する意味のあるシグナルを見つけ出し、健康な人生を送るためのパーソナル化されたガイドを提供することです。ガイドを通じて個人の経験が生物学と結びついていくことで、人々の生活習慣への意識が変わっていくでしょう。連盟企業でリソースを持ち寄ることでこの進化を加速させて行きます」

注目すべきは、iCarbonX社が深セン発の企業であることだ。現在、中国を代表するイノベーションシティーとなった深センだが、AI領域については北京の後発だった。医療AIベンチャーの分布を見ても、北京が約40%を占め、深センを含む広東は約10%となっている。

ただし、これからの数年間で、ヘルスケア×AI産業における深センの存在感は徐々に高まっていく兆候がある。理由としてはまず、「センサー・ウェアラブル端末」を安価かつスピーディーに開発できる恵まれた環境がある。データ取得の対象が人である以上、効率的で不快感のない端末が日々のデータ収集作業には求められるが、深センはその点で競争力を発揮する可能性を秘めているのだ。

ふたつ目の理由が、それら新しい端末を試してみたいという新しいモノ好きの人々が多い点だ。平均年齢が30代前半でライフスタイルをはじめ、変化に柔軟な若者が集まっている。彼らがマーケティングの対象、また流行の発信源として注目されていくだろう。

最後に「イノベーション力」が挙げられる。今年4月、深セン市は国家中医薬改革試験区を設立。中国医学・薬学という伝統的領域へのイノベーションを促進する拠点にしていく旨を発表している。中国医学の基本コンセプトは、日々の健康管理を予防につなげるというものだが、これはヘルスケア×AIが目指す方向とも一致している。歴史が長く蓄積のある中国医学研究とAIを代表とする先端テクノロジーの融合により、深センから革新的な事例が出てくる潜在性は高い。

AI産業への注目度が上がるにつれ、ますます過熱する中国のビッグデータ競争。優位性のある個人データやサンプル取得環境を武器に躍進する医療・ヘルスケアAI分野は、規模感・スピード感ともに年々勢いを増している。平均寿命において現状53位(2016年)の中国だが、2030年頃にはその順位が大幅に改善されているかもしれない。

文=川ノ上 和文

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