中国のヘルスケア産業、個人情報への「意識の低さ」が追い風に

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中国のAI産業が急速な成長を遂げている。なかでも、ヘルスケア×AIの分野の成長は先進諸国を圧倒する勢いだ。

その背景にはさまざまな要因がある。例えば、年々増加する投資や政策面でのサポート、豊かな人材供給基盤、ビッグデータの蓄積などがそれにあたる。加えて、ヘルスケア×AI分野においては、意外なことに「個人情報に対する意識の低さ」も中国の強みとなっている。

個人情報のうち、病歴や処方薬情報など医療に関わる「身体情報」については、欧米各国を中心に厳重管理の必要性を求める声が高まってきている。だが中国は「プライバシー」に対する意識が他国とは異なるため、良くも悪くも実験的な試みやビジネスなどの成立が早いという実情がある。そんな中国のヘルスケア×AI分野は、今後、どのような方向に発展していくのだろうか。

中国政府は、国家戦略として医療およびヘルスケア産業を強化していくため、2020年に向けて「小康社会(いくらかゆとりのある社会)」、さらに2030年に向けて「健康中国2030」という方針を発表している。主な内容としては、高齢化や都市化が進み人々のライフスタイルが変化するなか、長期計画のもと「予防」に焦点を当てたサービス開発を支援していくというものだ。

前瞻産業研究院が発表しているレポートによれば、中国のヘルスケア産業は2016年時点で3.2万億元(約51.2兆円)規模となっている。今後、毎年約20%の成長率を維持し、2020年には8万億元(約128兆円)、2030年は16万億元にまで拡大するとの予想だ。

米国、日本のGDPに占めるヘルスケア産業の割合がそれぞれ15%、10%であるのに対し、中国はまだ5%足らず。成長余地が大きく、AIを含むテクノロジーとの融合によりさらなる産業拡大も期待されている。

なおヘルスケア×AIの肝となるビッグデータ活用については、政府が2015~2016年に数回にわたり「健康情報のデータ化促進」に言及している。2017年1月には「全国人口健康信息化発展計画」が発表され、国民の健康情報データ化のさらなる促進、サービス体系の確立などが国家戦略レベルに引き上げられた。深セン清華大学研究院国際部でディレクターを務める関係者は言う。

「ヘルスケア分野は深セン清華大学研究院(大学発インキュベーション機関)にとっても注目領域の一つです。我々が支援するプロジェクトの中にもヘルスケアビッグデータ収集・分析・可視化を行い高度医療サービスへ繋げるものがあります。人々のデータサンプル提供への積極性は比較的高いかもしれません。私も興味があり先日遺伝子検査を受けてきたところです」

中国政府がヘルスケア×AIの発展に積極的な姿勢をみせる流れは、急速に成長する国内医療系AIベンチャーの動きをさらに加速させるはずだ。

火石創造(医療系情報データベース)によると、中国の医療系AIベンチャーの数は2017年時点で138社。なお1998年から2013年までの15年間で37社が新たに誕生しているが、2014年からの3年間では101社が新たに同領域に飛び込んでいる。そのうちヘルスケア分野の企業は37社。これは診断補助サービスの41社に次ぐ数で、高い注目度がうかがえる。
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文=川ノ上 和文

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