ビジネス

2017.08.25

利益よりも課題解決 支援が殺到した「痴漢撲滅ムーブメント」

(左から)プロジェクトに共感しサンプルバッジ(3万円)を提供したリアライズ代表取締役佐藤雅裕、痴漢抑止センター代表理事の松永弥生、FAAVO発起人の齋藤隆太。

「痴漢にあったら声を出せばいい。昔はそう考えていたけど、実際に被害にあって、それが簡単ではないことがわかった」

化粧品会社ミックコスモに勤める伊藤健太郎は、社会人2年目のときに経験した痴漢被害を振り返った。JR大阪駅の書店。立ち読みしていたら、下半身に違和感を覚えた。振り返ると、中年の男性が股間に手を伸ばしていた。伊藤は声をあげることもできずに走って逃げた。

記憶も薄れかけていた2015年、「Stop痴漢バッジプロジェクト」を知った。プロジェクトオーナーの松永弥生は、痴漢に悩まされてきた友人の娘が「痴漢は犯罪」と書かれた大きなカードをつけて登校していることを知った。目立つカードのおかげで被害はなくなった。

しかし、女子高生が不格好なカードをつけなければ痴漢を防げない状況に胸が痛んだ。女子高生がつけやすい缶バッジにすれば、多くの人が痴漢から身を守れるかもしれない。その思いからバッジ製作を決意。FAAVOのプラットフォームを活用して資金を募った。松永と名刺交換をしたことがあった伊藤は、松永のフェイスブックへの書き込みでプロジェクトを知り、迷うことなく支援を決めた。

目標金額は50万円。伊藤が支援を決めた3000円コースのリターンは、発案者からのサンクスレターと、バッジのデザインコンテストの投票権及び現物一つだ。バッジの価格は380円で、支援額よりもずっと安いが、それでも支援が殺到した。FAAVO事業部責任者の齋藤隆太は「経済的な利益より、社会的課題を解決したいという気持ちが上回った」と分析する。

バッジの無料配布イベントを開くため、目標金額を150万円に引き上げた。松永の要請を受けた伊藤は、上司に掛け合って会社としても支援を決めた。当初、社内の反応は冷めていたが、メディアに取り上げられて空気が変わったという。

「自分たちのやっていることに誇りを持てたのでしょう。仕事として化粧品を売っていた人たちが、自分たちは女性を応援しているという意識に変わった」(伊藤)

最終的に334名の支援者から約212万円の資金を集め、6000個以上のバッジがつくられた。この成功を見て、伊藤の勤務先も新商品開発にクラウドファンディングを活用することを検討中だ。

文=村上敬 写真=アーウィン・ウォン

この記事は 「Forbes JAPAN No.37 2017年8月号(2017/06/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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