今回は、C=Cross Couplingについて(以下、出井伸之氏談)。
2010年にノーベル化学賞を受賞した、クロスカップリング反応理論。実はこの化学反応の中に、ビジネスにおける重要なテーマが隠されている。クロスカップリングは、次に来るAIやブロックチェーンなどによるパラダイムチェンジの中で日本が成長するためのキーワードになるかもしれない。
そもそもクロスカップリング反応とは、異なる2つの分子を結合する反応を指す。米パデュー大学の根岸英一博士は、異なる2種類の分子の間にパラジウムという金属を触媒させ、それまで弾き合っていた分子を結合させることに成功した。それが高血圧症の治療薬や液晶材料など、多様な工業物質の製造に必須の合成法となって世界的に広く普及し、ノーベル化学賞の受賞に至ったのだ。
その反応理論がなぜ、ビジネスと関係あるのか。その秘密は、異質な物を結合するときにある。
かつてアメリカでは「NIH(ノット・インベンテッド・ヒア)症候群」と呼ばれる企業病があった。自社以外の組織が生み出した技術やアイデアを受け入れない、いわゆる自前主義だ。多くの企業が「最先端の技術さえあれば競争に勝てる」と考えた結果、自社での開発を当然視する風潮が生まれた。
しかし競争の激化に伴い、一部の企業が各分野における世界最高のテクノロジーを外部から導入し始めた。すると、内製化率の高いライバル企業は新規テクノロジーの導入が遅れ、存亡の危機に直面することとなったのだ。
このことからアメリカはじめ世界中で、異質な企業同士で協力体制を組む事例が増えている。これがビジネスのクロスカップリングである。
同質カップリングの多かった日本
これまで日本では、同質企業同士のカップリングが多く行われてきた。バブル崩壊後にはいくつもの銀行が合併してメガバンクとなり、今日まで生き残っている。しかし同質でのカップリングばかりが横行しすぎているのではないか。残念ながら、同質のもの同士からは新しい何かが生まれる可能性は低い。
ビジネスに限らず、日本はあらゆる分野で異質なものに背を向ける傾向にある。しかしその姿勢が通用する時代も過ぎ、異質に対してしっかり向き合うタイミングがきた。例えば人材という面では、ニーズに応じて、移民も含めて海外から受け入れることも視野に入れる時期かもしれない。世代や性別を超えたクロスカップリングも考えていくべきである。
過去を振り返ると、人々にとって映画が娯楽だった時代、テレビの登場で映画会社は大恐慌に陥った。しかし、映画とテレビは今も共存している。さらにはその後、インターネットが登場しテレビの視聴率は下降しているが、完全にテレビが消えたわけではなく、テレビとインターネットは共存関係を築いている。