市場規模8.7兆円 社会的事業への「資金の流れ」を変えるには

ビル&メリンダ・ゲイツ財団を設立し、社会貢献に力を入れているゲイツ夫妻(Photo by Vipin Kumar/Hindustan Times via Getty Images)


—その他には、どのようなことでしょうか。

井上:自民党の社会的事業に関する特命委員会でも、色々と意見を述べさせていただいています。例えば、欧米には民間団体による社会的企業の認証制度「B corporation」のほか、公的なものも含めて様々な認証制度が存在します。社会的企業の定義として、非営利法人の他、営利法人でもそれに該当し得るという背景に立った枠組みです。しかし日本では、非営利法人・営利法人に共通した社会的企業の認証制度がないため、社会的企業に対する積極的投資を志向するファンド等を設けること自体が困難になっています。
 
また、イギリスでは社会的企業に対して投融資を行った個人投資家に対し、大幅な減税措置があります。要件を満たしていれば、上限を100万ポンドとする投融資額の30%相当額を個人の税額から控除したり、売却または償還時までキャピタルゲイン課税の繰り延べができます。
 
成功した起業家たち、今の日本のお金の出し手は、会社として法人税を支払い、個人として所得税や配当課税等を引かれ、度重なる課税を経て残った真水の資金から志で出している状態です。環境整備によって、彼らのみならず、既存の財団や地域の篤志家も含めた幅広い主体が中長期的公益資金を供給しやすくなれば、社会的課題の解決に大きく寄与します。

—この領域において、新経連はどのような役割を担いたいとお考えですか。

井上:新公益連盟や日本財団など、色々な方々と連携してムーブメントを起こしていきたい。16年には、日本財団主催のソーシャルイノベーションフォーラムで、新経連や新公連の代表者が登壇するコラボセッションも行われました。既にそういう動きは出始めてきています。

これからは、環境整備や制度設計を行いながら、各プレイヤーをしっかりつなげていきたい。潜在力の高いソーシャルアントレプレナーら、資金の受け手と出し手が循環する環境が整えば、エコシステムが大きく動き出します。日本には素養を持つ受け手は大勢おり、そこへ資金を付けてハンズオンで応援していけば、具体的な成果が生まれていくでしょう。

—試算された経済的効果は、実現の可能性が大いにあるわけですね。

井上:実現させなければいけません。起業家的発想でいくと、諸外国ができているのに日本ができないわけがない。

ただ日本においては、いかに大企業を巻き込むかも大事だと思います。海外の有名企業家たちは兆円単位の資産を持っているのに対し、日本では有名企業家といえど、世界の資産家ランキングではトップ10に入っていないので、大企業をムーブメントに呼び込む必要があります。

個人としての活動だけでなく、全体でソーシャルインパクトをどう高めていくかという発想は、まさにエコシステムです。つまり、フィランソロピー・エコシステムは、ある種スタートアップ・エコシステムと同じだといえます。ヒト・モノ・カネの循環によって、良い影響が拡散していきます。多様なプレイヤーと共にエコシステムを大きくしていくことが大事であり、その兆候や手応えは感じています。


新経済連盟◎政策提言や社会啓発などを行う民間の経済団体。イノベーション、グローバリゼーション、アントレプレナーシップの促進を理念に掲げ、2010年に設立。16年3月、ベンチャー・フィランソロピーのプロジェクトチームを設置。

井上高志/LIFULL◎新経済連盟理事。同プロジェクトチームメンバー。1968年生まれ、97年ネクスト(現LIFULL)設立。

文=ミゲル・ヘルフト 翻訳=町田敦夫

この記事は 「Forbes JAPAN No.37 2017年8月号(2017/06/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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