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2017.08.17

作りたい人と観たい人をつないだ「お金」の仕組み

(左から)支援者の竹内謙、プロデューサーでありGENCO代表取締役真木太郎、サイバーエージェント・クラウドファンディング代表取締役中山亮太郎、キュレーター三田村恵里。(photograph by Irwin Wong)

観客動員200万人を突破した映画『この世界の片隅に』は、クラウドファンディングの仕組みがなければ世に出ていなかったかもしれない。

プロデューサー真木太郎が映画化プロジェクトに参加した13年の時点で資金調達の目途は立っておらず、14年暮れにはある投資家と破談。「内実はどうしようもなくなったから」(真木)と、クラウドファンディングに一縷の望みを託した。

反応は想像以上だった。目標額2000万円は8日で達成。最終的に3000人以上の支援者が集まり、約3912万円の資金が集まった。

片渕須直監督のファン、原作漫画のファン、映画の舞台となった広島出身者、そして新しい手法を応援したいというアニメ映画関係者──。プラットフォームを提供したMakuakeを運営する、サイバーエージェント・クラウドファンディングの中山亮太郎CEOは、「それぞれ動機は違っても、素敵な映画を作ってほしいという願いは同じだった」と話す。

支援者として出資した竹内謙も映画の完成に期待を寄せた一人だ。竹内が選んだ1万円の支援のリターンは、主人公から届く設定の「すずさんからの手紙」や監督を囲むミーティングへの参加権、エンドロールに自身の名前がクレジットされる特典など。

公開直前に帰国した竹内は「映画で感動して涙が止まらなかった。でも自分のクレジットが見たくて必死に涙を拭いた」と笑う。

アメリカ赴任中だった竹内は当初、クラウドファンディングに懐疑的だった。アメリカではスタートアップによるクラウドファンディングを使った商品開発は珍しくないが、審査が甘く、約束通りに開発できないケースを目の当たりにしていた。

「それでも支援を決めたのは、昔からプロデューサーの真木さんと片渕監督のファンだったから。この二人が組んで映画を作るということは、世界に伝えなければいけない大事なメッセージがあるということ。それを埋もれさせるわけにはいかないという使命感がありました」(竹内)

竹内自身も絵を描くクリエイター。いままでは自己完結的にSNSなどで作品を発表していたが、「素晴らしい作品なら世に出せる手法があることがわかった。アマチュアの自分でも何かできることがある」。竹内の瞳は創作意欲に燃えていた。

文=村上敬

この記事は 「Forbes JAPAN No.37 2017年8月号(2017/06/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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