ビジネス

2017.08.16

マイクロソフト×NPOの「若者支援」が成功している理由

認定NPO法人育て上げネットの工藤啓理事長

マイクロソフト、JPモルガン・チェース、ウォルマート、リクルート、新生銀行──グローバル企業をはじめ、多くの大企業が手を組む、若者支援NPOがある。認定NPO法人育て上げネットだ。

若年者就労基礎訓練プログラム「ジョブトレ」を基盤に、多角的な若者支援事業を実施する同団体は、2004年のNPO法人化以来、さまざまな困難により、無業となってしまう若者たちを支えてきた。

なぜ育て上げネットは、グローバル企業と連携できるか? その理由を、育て上げネット理事長の工藤啓はこう話す。

「僕たちの目的はただひとつ。とにかく、若者を支援すること。だから、その“僕たち”をいかに広げるか、が重要です。だから、自分たちの組織を『スケールアップ』するのではなく、プログラムの『スケールアウト』を支援することに力をいれています」

企業・行政・NPOをつなぐ

その考えを象徴する事例が、10年度から7年続く日本マイクロソフトとの連携事業「若者UP」だ。これはマイクロソフトが、ICT(情報通信技術)で若者の可能性を引き出すことを目指し、世界各国で実施するチャレンジ支援の一環である。

工藤が日本マイクロソフトの渉外・社会貢献課長の龍治玲奈とはじめて会ったのは、09年。女性を支援してきた同社が、新たに若者支援を開始しようと、この分野で実績のある工藤に声をかけたのだ。マイクロソフトには、どんな若者支援ができるのか。支援の場のニーズをもとに、その方法について議論したという。

「工藤さんには初めから、『全ての無業の若者を支援したい』と断言した上で、プログラムの相談をしていました」

龍治がそう話すのには、理由がある。マイクロソフトは「世界中のすべての人々とビジネスの持つ可能性を最大限に引き出すための支援をすること」をミッションに掲げており、それはフィランソロピー活動の指針でもある。特定の地域、特定の団体への支援ではなく、全国展開が必須条件。それは、工藤の思い描く問題解決のあり方とも一致していた。

「僕らも日本中で困っている若者を何とかしたい。しかし、全国に事業所を展開するより、各地域で頑張っている人たちと一緒にやる方が、効率的です」

そうして開始した若者UPでは、社会的困難を抱える若者(13〜39歳)に、Officeソフト等の基本的なITスキル講習を、就労支援と組み合わせて提供する。

特徴的なのは、プロジェクトにおける育て上げネットの立ち位置。現場での講習をパートナーNPOと行いながらも「プロジェクト事務局」として、全体を統括する役割を担う。主に、自治体や地域の支援機関・企業との連携を行ってきた。

工藤からマイクロソフトへの提案は、次の通りだった。若者就労支援のノウハウを持ち、「地域若者サポートステーション(以下、サポートステーション)」の運営を厚生労働省から受託している団体の中から、首都圏の5団体まず連携し、プログラムを開始。それをトライアルとして、翌年度には全国25団体に広げようというものだ。ゼロベースではなく、国の事業として、既に成果を上げているプラットフォームを利用し、マイクロソフトの質の高いITスキル講習を効率的に全国展開することが工藤の戦略であった。

若者就労支援で実績のある工藤が事務局を務めることにより、プロジェクトは、毎年、全国の若者支援団体と新たに連携をし、支援の輪を広げていく。現在、就労支援で49か所、子ども教育支援で9か所が全国各地から参加している。

日本マイクロソフトの龍治は、同プロジェクトについて、次のように評価する。「行政、NPO、企業という本当に組むべき全てのセクターが、1つのプラットフォームに乗った、理想的な事業です」
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文=山本隆太郎 写真=ウォン・アーウィン

この記事は 「Forbes JAPAN No.37 2017年8月号(2017/06/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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